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言語的根拠のある味


1.言語的根拠のある味とは
 言語的根拠のある味とは「普及した言葉で表されている認識であることを根拠にした味」である。言語的根拠はいちばん理解し難い根拠であるが、4種の根拠の中で味の認識にいちばん近い事象である。


2.言語的根拠の要件

 言語的根拠のある味の要件は、@味が下に付く用語である(原則)、A官能特性の味を意味している、B味の特徴を表現している、C定型的な表現といえることである。@〜Bは味を表す言葉であることを担保するための要件で、Cは言葉が普及していることを担保するための要件である。Cの要件に関し、現在採用しているのは、データベース(以下DB)の活用である。具体的には、新聞系DBの朝日新聞クロスサーチとレシピ系DBであるレシピブログでのヒット件数を指標とし、判定基準値としては両方とも100以上としている。また、味名が複合語あるいは熟語の場合は、適宜緩和している。
 言語的根拠では味を表す要件が多くなっているが、これは当然である。他の3つの根拠では、刺激についての知見が付随しているが、言語的根拠では対象にできるのは認識(味)だけのためである。
 Cの定型的な表現に関し、本来は国勢調査とか内閣府の世論調査のような国レベルの調査、少なくとも医療分野で行われているレベルの調査を実施することが望ましい。しかしながら、味の分野でそのような調査を実施することは現実的でない。上の要件は、現実的対応である。
 言語的根拠のある味は、言葉として定着しているという、味の分野では等閑視されてきた根拠に基づいている。言語的根拠も、生理学的根拠や物質的根拠と並んで、科学的根拠の一部と信じられる。

3.確認している味
 
言語的根拠のある味として確認しているのは、筆者が提案している「味の一覧表」に含まれる216種である。4種の味といえる根拠の中で、言語的根拠のある味は数が圧倒的に多い。その内訳は、「味の一覧表(本表)」の大カテゴリー「単独物質味」のうち甘味、塩味、酸味、苦味、うま味、辛味、渋味、えぐ味の8種、「複数物質味」の甘酸っぱい味、甘辛味、コク味、旨味の4種および「食品一括味」のほとんど(139種)、そして「味の一覧表(別表2)」の全て(65種)である。

4.言語的根拠の特徴
 
言語的根拠は、前項までの3種の根拠とは全く異なる視点の根拠である。下図のように、前ページまでの3種の根拠が認識の入力側のモノであるのに対し、言語的根拠は認識の出力側の事象である。言語的根拠では、味の認識が不確かな問題を、水準以上に確かな味言葉(味の名称)を活用することにより解決している。味の認識は、必ず味の名称で表わされるからである。基本味でも、言葉(味名)で表されている。



           味といえる根拠の事物・事象の概念図

 言語的根拠のある味は、他の3種の根拠のある味のどれとも重複する例がある。物体的根拠のある味の場合は、生理学的根拠のある味や物質的根拠のある味と重複することはない。この事実は、言語的根拠は出力側の根拠なので、入力側の根拠の種類を問わないことを示している。
 認知言語学によれば、言葉は概念が記号化されたものであり、概念は認識を元に形成される。そして、味などの認識は、感覚情報を元に形成される。したがって、味の名称は、感覚情報による認識を反映していることになる。

5.言語的根拠の妥当性
 言語的根拠は筆者が提案した根拠であり、前項までの3種の根拠に比べると、広く理解されているとは難い根拠である。とはいえ、このことは根拠が薄弱なことを意味しない。味の認識は言葉で表現されるからである。これまで言語的根拠が看過されてきた重要な理由に、味が主に自然科学分野の課題とみなされてきたことと、自然科学分野の研究者の人文科学への故なき偏見があると考えている。少なくとも、言語学は科学と呼べるものになっている。味の分野にも言語学の成果を導入しない理由はない。
 とはいえ、言語が異なれば採用される味名も異なることを指摘しておく必要がある。実際、筆者は英語中国語など5カ国語の味名を調査したが、それぞれに大きく異なっていた。また、生理学的根拠のある味や物質的根拠のある味は外国語に翻訳し易いが、言語的根拠のある味は上手く訳さないと意味不明になる。

(2023年11月作成)