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結論を導いた二つの調査


48.6%もの回答者がご飯にうま味を感じるとした「基本味の好ましさに関するアンケート調査」では、調査対象者が女子学生であったので、女子学生がご飯にうまみを感じる特別な集団であることが懸念された。

 そこで、農研機構食品総合研究所の研究者・職員の一部の方に依頼して、ご飯にうまみを感じるかを質問したところ、実に64.1%が感じると回答した。この調査の対象者は、現役世代が中心であり、そして男女をほぼ同数にしたので、ご飯にうまみを感じる人が多いことが確認できた。 そこで、ご飯のうまみに関与する物質(状態)を探ることにした。とはいえ、ご飯のうまみの具体像は雲を掴むような話であった。官能検査を実施することも考えたが、具体像を提示できなければ、ご飯のうまみについて質問してもパネルが戸惑うだけである。そこで、 改めてアンケート調査を実施することにした。

 1回目のアンケート調査に必要となる選択肢を準備するために、専門家へのヒアリングを行った。また、一般の人の意見も大切と考えて、身近な人の意見を聞いて回った。これらの意見を踏まえ、この調査の実施に協力してもらった奥西智哉ユニット長とも相談して、表1のような7項目の選択肢を作成した。この調査では、予めご飯のうまみを感じるかを質問して、感じると回答した人だけに質問した。結果は、表1の選択者比率欄にあるように、「かすかな甘味に伴って感じるもう一つの好ましい感覚である」が60%でいちばん多く、次いで「しっとりとしたご飯の感触とほのかな香りがもたらす感覚である」の44%となった。うま味調味料に関する2つの選択肢は予想されたようにほとんど選ばれなかったので、うま味物質の関与は否定できた。しかしながら、第1位と第2位の選ばれ方にあまり差がなく、また両者は全く別の内容であり、これを組み合わせてご飯のうまみをイメージすることは困難であった。

 そこで、アンケート調査2を計画した。この調査では、調査の質を高めるために、調査対象者には日常的にご飯の食味試験を担当している熟練パネルが多くなるように関係者にお願いした。結果(表2)は、「噛んでいるうちに出てくるおいしいなと思わせる味である」を選択した人がいちばん多かった(55.9%)が、「ご飯の感触とほのかな香りがもたらす感覚である」も大差なく(35.6%)、そして「温かいご飯の感触に伴って感じる、好ましい感覚である」も少なからず(25.4%)選ばれた。「噛んでいるうちに出てくるおいしいなと思わせる味である」がいちばん多いとはいえ、集中したとは言い難い。

 ただ、この調査に含めた別の質問の中に「『ご飯のうまみ』には香りが関与しているという人がいます。その意見は正しいと思いますか」を加えてあったが、この質問に対し「正しいと思う」と回答した人が64.4%もいた。さらに上の主質問で「噛んでいるうちに出てくるおいしいなと思わせる味である」を選択した人のうち、この質問で「正しいと思う」と回答した人が62.5%もいたのである。「間違っていると思う」と回答した人は6.3%にすぎなかった。これらを考え合わせると、ご飯のうまみには香りが関与すると推認された。

  また別の質問に「感じているうまみと甘味は識別できますか」もあった。この質問に対し、「一応識別できる」と回答した人が55.9%いたが、「明確に識別できる」と回答した人は10.2%にすぎなかった。主質問で「噛んでいるうちに出てくるおいしいなと思わせる味である」を選択した人についても、「明確に識別できる」と回答した人が12.5%しかいなかった。この結果は、ご飯のうまみには甘味も関与することを示している。そして、主質問で、2番目に多く選ばれた「ご飯の感触とほのかな香りがもたらす感覚である」にも、3番目に多く選ばれた「温かいご飯の感触に伴って感じる、好ましい感覚である」にも“ご飯の感触”が含まれていることから、ご飯の感触も支持されているようにみえた。

  以上のように、ご飯のうまみには香り、穏やかな甘味そしておそらくは温みのある感触も関与すると結論できた。嗅覚分野ではレトロネイザル経路の香りが風味や味わいに関与していることが定説となっているので、ご飯のうまみにレトロネイザル香が関与しているとみなすと、上述の結果を含めアンケート調査2で得られた結果が無理なく説明できた。したがって、ご飯のうまみはレトロネイザル香が関与する味であると結論した。

(2016年2月作成)