1.問題の所在
本欄では「味を表す普通の言葉は味が存在する根拠になる」と指摘している。この指摘には「味を表す普通の言葉」が含まれる。この用語では、言葉を二つの用語が形容している。このうち、「普通の言葉」は次ページで考察することにして、このページでは「味を表す言葉」を考察する。具体的には「味の言葉」と「味を表す言葉」の違いである。
2.味も言葉で表される
本論に入る前に、味も言葉で表されることを確認しておく。例えば、甘味も言葉である。わざわざ当たり前のことをいうのは、甘味も言葉というと違和感を覚える人が少なくないためである。甘味は感覚(認識)であって、言葉は便宜的に借用しているだけという理解が一般的である。しかしながら、甘味は感覚であるが、同時にその感覚に付けられた名称でもある。感覚といえども、それを人に伝えたり記録に残したりするためには、名称(言葉)が必要である。認識と言葉は、一つのことの両面である。
3.味の言葉と味を表す言葉の違い
本論に戻ると、認知言語学でいう認識と言葉の関係を活用するに際して、それぞれの用語を「味の」で形容して、味の認識と味の言葉の関係としても成り立つように思える。ところが、この記述は必ずしも正しくない。というのは、味の言葉には味を表す言葉(味名)だけでなく、味を表現するだけの語(味語)も含まれるからである。
ここに、味名は味の名称で、一般に味が下に付く用語(例:イチゴ味、優しい味)が活用される。一方、味語は、味を表現するだけの語で、しばしば単語が活用される。名詞(例:バニラ)や形容詞(例:奥深い)のことが多い。
味の言葉が広く活用される官能評価分野では、味の言葉のことを、味を表現する用語と呼んでいる。味を表現する用語には味を表す言葉(味名)と味を表現するだけ言葉(味語)が含まれている。味を表現するだけの言葉の方が単語一つでなので、使い易い。それに加えて、日本語に比べて英語など欧米語では主に味語が活用されていて、味名はあまり活用されない。言葉の世界では、現在も英語が圧倒的な地位を占めているので、その影響は大きい。
一方、味名が味の名称といえるのに対し、味語は味の名称であるとは必ずしもいえない。味の名称を議論するのであるから、この違いは大きいのである
(2020年1月作成)(2022年1月改稿)