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感覚・知覚・認知


言葉としての味を考えるうえで、味の認識を理解する必要がある。というのは、味は感覚と理解している人も多いが、味の認識には感覚・知覚・認知の区別がある。

 この分野は心理学で取り組まれているので、心理学分野における感覚・知覚・認知の区別を調べた。心理学分野においては、感覚・知覚・認知の区別が数多くなされていて、それぞれでかなり異なるのであるが、その中で代表的と思われたのは、田谷による次の説明である1)
   感覚:目、耳、皮膚などの感覚受容器で外界の刺激を受け、それが神経信号に変換されて
      上行する過程。
   知覚:感覚信号が大脳皮質の各感覚情報処理領域に到達し外界のモノとして認識する
      過程。
   認知:知覚されたモノが概念中枢で処理されて物として理解される過程。

 専門分野の常識とはいえ、この区別で味を理解するのは不都合である。というのは、この区別によれば、基本味も知覚となり、感覚に該当する味はない。ところが、味の分野では伝統的に基本味は感覚と説明されてきた。主たる関心も感覚にある。甘味物質の刺激が味覚細胞で受容されると、自動的に甘味が認識されるように理解されている。

 ウェブサイトをみると、分かりやすい説明がなされている。たとえば、「感覚・知覚・認知の違い」(http://bokudowa805.blog.jp/archives/49420961.html))では、下記のように纏められている。
   感覚:単純に物理的世界の情報の受容と言える(白い光を受容器が受け取って、白色を感
      じる過程が感覚である)。
   知覚:感覚刺激を一定の束にまとめる作用である。
   認知:受け取った情報に過去の体験、記憶、思考、言語などにより意味づけする役割。

 この場合は、基本味は感覚といえそうである。ただし、この説明は、物理的世界を対象にしていて、このままでは味を区別するのには適していない。

 そこで、上の二つの説明と各種国語辞典の語釈を参考にして、本サイトでは以下のように説明する。
   感覚:感覚受容器からの感覚情報がそのまま認識される過程。
   知覚:複数の感覚情報が脳内で統合・処理された結果認識される過程。
   認知:脳内情報処理において、記憶との照合・主体的判断・食文化の影響を受けた結果認
      識される過程。

 この区別で、本サイトで取り上げた21種の味を分類すると、
   感覚の味:甘味・塩味・酸味・苦味・うま味・アルカリ味・金属味・カルシウム味
        ・脂肪酸味(以上味覚性味)、
        辛味・炭酸味・冷味・渋味・えぐ味(以上表在感覚性味)
   知覚の味:優しい味・あっさり味・素朴な味・風味
   認知の味:ご飯の味・イチゴ味・おふくろの味
となる。

 また、この分野ではマルチモーダル知覚(多感覚知覚)などの表現も多いので、この視点で分類しておくと、感覚の味は全てユニモーダル感覚であり、知覚の味はモノモーダル知覚(旨味)とバイモーダル知覚(風味)あるいはマルチモーダル知覚に分かれ、認知の味はどちらもマルチモーダル認知となる。

1)田矢勝夫:感覚・知覚の神経心理学的障害, 脳神経心理学, 朝倉書店, pp.46-47 (2006)

(2019年12月作成)(2022年1月修正)