味わいは、味や風味との関係に関心が持たれることはあっても、味覚と比較されることはない。一方、味覚も、味との関係には関心が持たれても、味わいとの関係は関心が持たれたことがない。味わいと味覚はどちらも味に係わる語なので、類語には違いないけれども、その共通点を指摘することは、案外難しい。
そこで、味わいと味覚の相違点を整理する。味わいと味覚の最も大きな相違点は、@味わいが主体的に感じるのに対し、味覚は客体的な感じを意味することであろう。そして、A味わいが主に心理的側面を表現しているのに対し、味覚は主に生理的側面を表現している。三つ目は認識の内容で、B味わいが知覚の味や認知の味を意味して感覚の味を意味することはないのに対し、味覚は感覚の味だけを意味することがある。以下、順に概説する。
まず、主体的な客体的かである。これは味わいが主観的で味覚は客観的といわれることもある。筆者はむしろ、能動的か受動的かの方が相応しいかもしれない。いずれにしても、味わいには吟味する意味合いが強い。
次に、Aの味わいが主に心理的側面を表現しているのに対し、味覚は主に生理的側面を表現していることがある。ただし、味わいが生理的側面を表現することもあるし、味覚が心理的側面と表現することもある。ここで、指摘したいことは、味わいの心理的側面は感情が中心であるのに対し、味覚の心理的側面は専ら情動という違いもある。
次に、Bの認識の内容である。味わいの認識の内容はマルチモーダル知覚やマルチモーダル認知が中心であるのに対し、味覚の認識の内容は専ら基本味で、いわばユニモーダル感覚である。端的にいうと、味わいは多元的認識であり、味覚は一元的認識である。具体例を挙げて説明すると、味覚の認識内容の範囲は、甘味や苦味など基本味(ユニモーダル感覚)だけに限られる。これに対し、味わいの認識内容の範囲には、優しい味や素朴な味など(マルチモーダル知覚)とかおふくろの味やイチゴ味など(マルチモーダル認知)が含まれる。なお、味わいに基本味の甘味や苦味を含まれるかは、現在では明確でない。
(2019年12月作成)(2021年6月改稿)(2023年1月修正)