6ページに亘って考察してきた結果を踏まえて、味と味わいおよび味覚の意味の特徴をまとめると、以下のようになる。
味わいから始めると、味わいは味の心理的側面のウエイトが高いことに特徴がある。認識の内容(生理的的側面)のウエイトは低いが、認識内容の範囲は案外広い。現在では、基本味や体性感覚性味を含むかはやや曖昧となっているが、少なくとも古い時代には含まれた。味わいのもう一つの特徴は、認識の内容だけでなく、主体的に評価する過程も含むことである。
次に味覚である。味覚は認識の内容のウエイトの高いことに特徴がある。視覚や嗅覚は主に感覚の種類を意味するので、味覚も感覚の種類を意味するはずである。ところが、味覚は視覚や嗅覚などと比べて、認識の内容を意味することが特に多い。ただし、味覚が意味する認識内容の範囲は、基本味に限定される。案外狭いのである。また、味覚は主に味の生理的側面を表現する。心理的側面を表現することもあるが、限定的である。
最後は、本来の目的の味である。味は、味の生理的側面と心理的側面の両方を表現している。すなわち、この件に関し、味は味わいと味覚の両方の特徴を持っている。このことが、味わいと味覚はほとんど共通点が指摘できないにもかかわらず、味が味わいとも味覚とも区別されずに使用される理由といえる。
認識の内容についても、味は味わいと味覚の両方の意味を持つ。これは事例を挙げて説明する。対象とするのは、基本味の甘味と苦味、体性感覚性味の辛味と渋味、「食品一括味」に含まれる味のうち知覚である風味と優しい味、そして認知であるイチゴ味とおふくろの味である。基本味の甘味と苦味は、味であり味覚であるが、味わいかは曖昧である。辛味と渋味は、味であるが味覚ではない。味わいかどうかは曖昧である。風味と優しい味は、味であり味わいでもあるが、味覚ではない。イチゴ味とおふくろの味も、味であり味わいでもあるが、味覚ではない。つまり、味の意味する認識内容の範囲は、非常に広いのである。
(2019年12月作成)(2021年6月最終改訂)