味には、甘味・塩味・酸味・苦味・うま味の五基本味があるとされる。この常識が確立した背景には、日本には古くから味を5味(甘味・鹹味・酸味・苦味・辛味)と捉えてきた歴史があり、世界的にもアリストテレスの7味説からヘミングの味の正四面体説まで味(taste)を限定的に捉えてきた歴史がある。それが近代科学(特に生理学)の発展によって受容体の存在と関連付けられ、五基本味(甘味・塩味・酸味・苦味・うま味)に再編された。この捉え方は、専門家だけでなく、一般の人にも広く受け入れられた。
問題は、味が五基本味だけという通説の存在である。たとえば「辛味は味覚でないので、味でもない。」とか「風味には嗅覚も関与しているので、味ではない。」などと説明される。辛味や風味が味覚でないことは確かであるが、だから辛味や風味が味でないという主張は乱暴である。辛味は、上述のように、5味に含められてきたし、風味はいわゆる漢語で、趣のある味を意味する語として伝来し、そのように理解されてきた。しかも、特に20世紀後半から、イチゴ味、おふくろの味、優しい味など新しい味名が続々と生まれ定着している。五基本味だけが味という通説には無理がある。
味は五基本味だけというこの通説は、味覚でなければ味でもないという見解を前提としている。ところが、この見解がどうも怪しい。味の意味の誤解が、誤った通説の背景にあると考えられる。そこで、味と関連語である味わいおよび味覚との関係を改めて整理し、味の正しい理解に繋げたい。
なお、味は多義語であり、官能特性以外の用法もある。つまり、広辞苑の味の項で、A体験によって知った感じからE相場の動き具合までに説明されている語意の類いである。このような意味は、ここでの論議とは無縁なので対象にしない。
(2019年11月作成)(2021年6月修正)