味講座 に戻る 1.疑問 うま味は、五基本味の一つである。ところが、うま味のことを旨味と書いた例とか逆に旨味のことをうま味と書いた例をよく見かける。一般の人が間違えるのはまだ分かるが、味分野の専門家までもがしばしば混同している。うま味と旨味は、区別されないのだろうか。 2.回答 うま味は、五基本味の一つである。ところが、うま味のことを旨味と書いた例とか逆に旨味のことをうま味と書いた例をよく見かける。一般の人が間違えるのはまだ分かるが、味分野の専門家までもがしばしば混同している。うま味と旨味は、区別されないのだろうか。 3.解説 うま味は、日本で発見された味である。国際的にも基本味の一つであることが認められている。うま味は学術用語となっており、「グルタミン酸ナトリウムが呈する味」などと定義されている。うま味をこの意味以外で使用するのは間違いである。 一方、旨味は一般社会で自然発生的に生まれ、定着した語である。したがって、確かな定義はない。一般の人には「旨い味」くらいの意味で使用されている。 うま味と旨味が混同される原因は、三つある。一つは、どちらも発音すれば「うまみ」であり、また語感も「うまい味」と「旨い味」なので、区別し難いことである。二つ目は、発見者の池田がうま味と名付けたのは「昆布の煮出汁の味」であったのに、同じ論文で池田は「グルタミン酸を中和した塩はうま味を呈していました」とも書いていることである1)。つまり、うま味と旨味は、最初から混同されていた。そして三つ目は、うま味すなわち「グルタミン酸ナトリウムの味」が好ましい味(旨い味)でないことである。にも係わらず、専門家でも少なからず、うま味は「旨い味」と誤解している。この誤解こそが、混同される最大の要因であろう。 原因の二つ目と三つ目を改めて読むと、「うま味物質が関与して呈する好ましい味」(つまり「昆布の煮出汁の味」)を表す語がないことも、混同の一因であることに気付く。そこで、筆者はこの味を旨味と呼ぶことを提案した2)。このよう整理すれば、うま味(グルタミン酸ナトリウムの味)と旨味(うま味物質が関与して呈する好ましい味)の区別がより明確となる。 上述のように、社会的には旨味は「旨い味」という広い意味で使用されている。したがって、一般の人の理解が変わることは、当分期待できないであろう。しかし、専門家はきちんと理解して、うま味と旨味を区別したい。 1) 池田菊苗:新調味料に就いて, 東京化学会誌, l30, 820-836, (1909). 2) 柳本正勝:和食の味・“うま味”の用語に関する考察, フードシステム研究, 23(3),283-288, (2016). (2020年5月作成)(2021年2月改訂) |