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甘  味



1.疑問

 広辞苑(第七版)の見出し語には、甘味を漢字表記した項が二つある。「かんみ〔甘味〕」と「あまみ〔甘み・甘味〕(ミは接尾辞。「味」は当て字)」である。そうすると、甘味は「かんみ」と読むのが正しく、「あまみ」と読むのは間違いなのだろうか。

2.回答
 現在の使用実態からすると、甘味は「あまみ」と読むのが適切である。「かんみ」と読んでも間違いではない。

3.解説
 この件には、歴史的背景がある。甘味は古い時代に中国から伝来した熟語である。そのために、日本でも長く、甘味は「かんみ」と読まれた。

 しかしながら、言葉は時代とともに変化することが知られている。国語辞典の関係者は、この事実をむしろ積極的に指摘している。つまり、現在において、甘味は「あまみ」と「かんみ」のどちらが多く使用されているかが問題である。

残念ながら、そのような調査結果は公表されていない。ただし、筆者の経験では、一般の人々だけでなく専門家も、「あまみ」と呼んでいる。専門家には「かんみ」と呼ぶ人も確かにいるが、少数である。

傍証もある。日本語ワープロソフト・ワードの「音声読み上げ」では、甘味を「あまみ」と読む。JIS 8144(官能評価分析―用語集)では、甘味に「あまみ」の振り仮名がある。各種の和英辞典でも、「あまみ(甘味)sweetness」を採用しいる。 

 同じ問題は、苦味や辛味にもあった。苦味や辛味も中国から伝来した熟語で、古くは「くみ」や「しんみ」と読まれた。現在では「にがみ」や「からみ」と読まれている。これらの味は、甘味よりも先に変化した。日葡辞書(1603年)という、昔の日本語がわかる辞書をみると、「にがみ」と「からみ」の項目はあるが、「くみ」や「しんみ」の項目はない。つまり、17世紀までには、苦味と辛味は既に「にがみ」と「からみ」に変化していたのである。

(2020年5月柳本作成)(2021年2月改訂)