慣用味名とは「言葉が存在することを根拠にした味の名称」と規定している。慣用味名は、色の分野で活用されている慣用色名を参考にした用語である。
味の分野では、ここに挙げているイチゴ味やあっさり味などの味は一顧だにしない風潮がある。しかし、これは不思議なことである。色の分野では、基本味より認識が確かな原色がある。それでも色名を系統色名と慣用色名に大別して、原色や基本色では表し難い色を表現する途を拓いている。香りの分野では、原香や基本香はない。だから香り名はないかといえば、むしろ闊達に香り名を付けて活用している。味だけは特別で基本味に限るべきという理由はなにもない。味にも基本味では表しがたい味がたくさんある。色・香り・味のような生活に密着した分野では、科学で説明できないことはたくさんある。生活で広く活用されているような用語は尊重する必要がある。
慣用味名は、「味の新世界」の論点整理で紹介している@生理学的根拠、A物質的根拠、B物体的根拠およびC言語的根拠のうち、B物体的根拠かC言語的根拠のどちらかの条件を満たす。慣用味名また、「味の一覧表」にある三つの大カテゴリーの一つである「食品一括味」と一致する。
基本味名といえども言語に依存するので、基本味名は各言語で異なる。たとえば甘味は、英語だとsweet tasteである。とはいえ、基本味名の場合、日本語の用語には英語にも該当する用語がある。ところが、慣用味名は言語特性や食習慣にも依存するので、日本語の慣用味名が英語にもあるとは限らない。日本語の慣用味名を英語に訳しても、意味が通じないことも多いであろう。なお、アメリカ英語にも慣用味名が29種存在することを確認している。英語の場合、訳語よりも英語のままの方が、適切に理解されるであろう。
現在の「味の一覧表」には、154種の慣用味名が含まれている。本欄では、このうち主な小カテゴリーの代表例としてイチゴ味、ご飯の味、風味、おふくろの味、優しい味、素朴な味、あっさり味を取り上げた。これらの味が味の一種であることを実感して欲しい。
(2019年12月作成)(2021年7月改稿)(2025年3月改訂)