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味情報の大脳への伝達



 味物質による刺激が味細胞や自由神経終末で受容・変換されるだけで、味が感じられるわけではない。味を認識するのは大脳なので、味情報が大脳に伝わる仕組みがある。この役割を担うのは、末梢神経系である。

1.伝達経路の概要
1)味覚情報

 味細胞で味覚刺激が変換された味覚情報は、まず味細胞にまで届いている末梢神経系の脳神経に伝達される。ここで化学物質情報が電気情報に変換される。脳神経の味覚情報は、延髄の孤束核に投射される。ここから上位の中枢神経に伝えられる。
 
2)痛覚情報
 痛覚刺激は、自由神経終末で受容・変換される。ここで変換された痛覚情報は、その段階で脳神経に伝わっている。脳神経の痛覚情報も、延髄の孤束核に投射される。そして、上位の中枢神経に伝えられる。

2.伝達に係わる神経系
1)味覚神経系

 味覚神経は、三種類ある。味覚以外の特殊感覚である視覚・聴覚・嗅覚には、専用の感覚神経(視神経・内耳神経・嗅神経)が存在する。専用の感覚神経がないという意味で、味覚情報の脳への伝達の仕組みは特殊である。

 三種類の味覚神経とは、第Ⅶ脳神経の顔面神経(鼓索神経)、第Ⅸ脳神経の舌咽神経(舌枝)および第Ⅹ脳神経の迷走神経(上喉頭神経)である(注:脳神経は一本ではなく、束になっている)。また一般には、感覚神経・運動神経・自律神経の束で構成されている)。顔面神経は、舌前2/3と軟口蓋の味覚、舌咽神経は舌後1/3の味覚、そして迷走神経は咽頭部や喉頭蓋の味覚に係わる。乳頭でいうと、茸状乳頭の味細胞は顔面神経、葉状乳頭と有郭乳頭の味細胞は舌咽神経、そしてそれ以外の味細胞は迷走神経を介する。経路の違いは、味質に影響を与えないと信じられている。

 参考までに、味覚受容体は内臓の各器官にも所在していることが知られている。たとえば甘味受容体は、消化管、膵臓にも所在することが確認されている。ところが、この情報はインスリンの分泌などを引き起こすが、甘味を感じさせることはない。内臓の味情報の伝達は、脳神経でなく、脊髄神経が係わるので、第一次味覚野には届かないのであろう。

2)痛覚神経系(三叉神経系)
 痛覚情報を伝えるのは、主に第Ⅴ脳神経の三叉神経である。辛味が三叉神経覚と呼ばれることがあるのは、このためである。ただし、舌の後方部は第Ⅶ脳神経の顔面神経(大浅錐体神経)という見解もある。三叉神経の情報は、延髄孤束核に投射される。上の味覚情報も延髄孤束核に投射されるが、延髄孤束核は細長い構造をしていて、投射する位置が異なる。三叉神経系には応答局在性の仕組みがあるので、舌からの情報であることは脳内にも伝わる。

(2021年2月作成)(2022年11月改訂))