味講座 に戻る 味の認識は、口腔内における味刺激の受容から始まり、脳における認識で完結する。 味刺激には、味覚刺激と体性感覚刺激がある。体性感覚刺激は更に①痛覚刺激、②温度感覚刺激、③触覚刺激に分類できる。ただし、本項では体性感覚刺激のうち辛味に係わる痛覚刺激だけを取り上げる。 感覚の刺激は、接触刺激と遠隔刺激に大別される。味覚と触覚は接触刺激を受容し、嗅覚と視覚および聴覚は遠隔刺激を受容する。また、味覚と嗅覚は化学物質を受容する。このうち、味覚は水溶性の化学物質を受容し、嗅覚は揮発性の化学物質を受容する。一方、痛覚は一般に物理刺激を受容するが、辛味の場合は、例外的に化学物質(カプサイシンやアリルイソチオシアネートなど)を受容する。 1.味覚刺激の受容の概要 味覚の受容は、口腔内で起きる。一般に舌で受容されると考えられているが、舌で受容されるのは80%くらいで、20%くらいは軟口蓋や咽頭・喉頭で受容される。したがって、舌が味覚の主な受容器官といえる。 舌に存在する受容器で、肉眼で確認できるのは乳頭である。乳頭には多数の味蕾があり、味蕾は多数の味細胞で構成されている。つまり、多層構造となっている。 乳頭は4種類ある。このうち味覚刺激の受容に係わるのは、有郭乳頭、茸状乳頭、葉状乳頭の3種類である。もう一つの糸状乳頭には味蕾がなく、味覚刺激の受容には関わらない。 味蕾は、名前の通り蕾の形をしている。味蕾は数多くの味細胞(味覚受容細胞)で構成されている。 味細胞には4種類あり、このうち味刺激の受容に関わるのはⅡ型味細胞とⅢ型味細胞である。Ⅱ型味細胞は甘味・苦味・うま味の受容に係わり、Ⅲ型味細胞は塩味と酸味の受容に係わる。ただし、個々の味細胞は一つの基本味に係わり、複数の味に係わることはない。 Ⅱ型味細胞とⅢ型味細胞では、味の受容機構が異なる。Ⅱ型味細胞の先端(生体表層側)には、味覚刺激を受容する受容体が所在する。この受容体はGタンパク質共役型受容体と呼ばれる。この受容体が味覚物質と結合する。一方、Ⅲ型味細胞の先端にも味覚刺激を受容する受容体が所在する。ただし、Ⅲ型細胞では味覚物質というより電解質と結合する。すなわち、塩味ではナトリウムイオン、酸味では水素イオンと結合する。だから、イオンチャンネル型受容体と呼ばれる。 2.痛覚刺激の受容の概要 痛覚は、一般感覚と呼ばれる体性感覚の一種で、侵害刺激を受容する。味覚など特殊感覚は特定の受容器官(目・耳・鼻・口)を持つのに対し、体性感覚は体の全体が受容器官である。体性感覚は、表在感覚(皮膚感覚)と深部感覚に大別されるが、痛覚や温度感覚は表在感覚である。 体性感覚の受容器は、特殊感覚に比べると単純である。体性感覚のうち触圧覚などは、一応受容器らしい組織を持つが、痛覚や温度感覚は、特別な細胞を持たない。痛覚は、皮膚の表層近くまで届いている末梢神経が分岐した末端(自由神経終末)で受容する。自由神経終末には特別な構造はなく、神経自体の先端に受容体が存在する。イオンチャンネルも存在するが、特別な構造となっていない。 上で述べたように、末梢神経は、体のほとんど全ての組織に届いている。当然、口腔内にも届いている。したがって、舌や軟口蓋でも痛覚刺激を受容する。上で説明した4種の乳頭も例外ではなく自由神経終末が届いており、痛覚刺激を受容する。 (2021年2月作成) |