味講座 に戻る 本欄では、味覚性味の甘味とともに痛覚性味の辛味も対象にしている。ただし、特に味刺激の味情報への変換過程では、甘味などに係わる味細胞での知見が豊富であるのに対し、辛味に係わる自由神経終末での知見は非常に乏しい。 1.味細胞での情報変換 1)味細胞の役割 味細胞の先端(生体表層側)には、味覚刺激に対する受容体が所在する。反対側(生体内部側)に伝達物質(ATP)が放出され、味細胞にまで届いている末梢神経に伝達できる情報に変換される。ここでは、この間で起きている、味細胞における情報変換について説明する。 2)Ⅱ型味細胞内での情報変換(甘味・苦味・酸味) ①味物質が味覚受容体に結合する。 ②味物質に結合した味覚受容体は、三量体Gタンパク質を活性化させる。 ③活性化したGタンパク質は、ホスファチジルイノシトール二リン酸を加水分解して、セカ ンドメッセンジャーであるPLCβ2(ホスフォリパーゼβ)を活性化する。 ④活性化されたPLCβ2が、セカンドメッセンジャーのIP3(イノシトール3リン酸)を産生 する。 ⑤IP3が、小胞体に貯えられているCa++を放出させる。 ⑥Ca++ の放出されると、TRPM5というイオンチャンネルを開く。 ⑦その結果、ナトリウムイオンが流入し、味細胞が脱分極化する。 ⑧味細胞の生体内部側に所在するカルシウムホメオスタティス変調器1(CALHM1)からATP が放出される。 3)Ⅲ型味細胞内での情報変換(塩味・酸味) ①味物質(電解質:水素イオンやナトリウムイオン)が受容体に結合する。 ②その電解質が味細胞内に流入する。 ③別のイオンチャンネルが開き、ナトリウムイオンやカルシウムイオンが流入し、味細胞 が脱分極する。 ④シナプス小胞から伝達物質(ATPまたはP2Xs)が細胞外に放出される。 4)味覚情報の末梢神経への伝達 放出されたATPを末梢神経が受容する際に、電気信号に変換される。以降は、味情報が電気信号として大脳に伝わる。 2.自由神経終末における情報変換 1)辛味物質(例カプサイシン)が受容体のTRPV1に結合すると、細胞外からナトリウムイ オンが流入する。 2)別のイオンチャンネルであるアノクタミン1を通って、塩化物イオン(塩素の陰イオ ン)が流出する。 3)その結果、電気信号が生じる。そのまま、末梢神経に伝わる。 (2021年2月作成) |