味講座 に戻る 1.概要 味には、甘味・塩味・酸味・苦味・うま味の五基本味があるとされている。それはそれとして、基本味の用語からすると、基本味に対応する味もあると思われるが、聞いたことがない。 2.味の理解における舌識の役割 舌識が注目されるのは、味覚と似た意味の語のためである。そして、認識内容の範囲は、舌識の方が味覚より広い。 舌識が仏教以外の資料で最初に登場するのは、日葡辞書である。仏教関係以外には、これしか見つからないので、日葡辞書が唯一の資料らしい。日葡辞書にはIexxiq(ゼッシキ)の項目があり、「Sentido do gosto」と説明されている。宣教師には、舌識は味覚と理解されていたことがわかる。ただし、舌識は味覚と全く同じ意味ではなく、舌による認識の意味だったと理解できる。参考までに、舌識の識は、対象を認識する心的作用である。 一方、味覚は明治時代に導入された語で、「sense of taste」(および「sensation of taste」)の訳語である。認識の内容としての味覚は、味の認識範囲を限定的に捉える。具体的にいうと、五基本味だけである。味も五基本味だけとする見解もあるが、味には辛味や渋味、そしてコク味や脂味、さらにはイチゴ味や優しい味など多種多様な味が含まれる。このように、味の認識内容の範囲が広いのは、かつては味が舌識を意味したためと考えられるのである。 味覚の認識内容の範囲は、名前の通り味覚だけである。これに対し、舌には触覚器も存在するので、舌識には味覚とともに触覚の一部も含まれる。また、香りのうち呼気香(レトロネイザル香)は味の一部と認識されることがわかっている。つまり、舌識には嗅覚の一部も関与する。認識の対象が広いために、舌識の認識内容の範囲は味覚よりずっと広いのである。 舌識は上述のように仏教用語であるが、日葡辞書にはその旨の注書き(すなわちBUP)がない。編者(キリスト教宣教師)にとって仏教は邪宗であり仏教に関しては敏感だったはずである。仏教用語との注書きがないことは、編者が舌識を日常用語としても収集したことを示している。 舌識は、国語辞典(広辞苑など)でも漢和辞典(学研漢和大辞典など)でも、項目には採用されていない。仏教用語辞典(例文仏教語大辞典など)では採用しているものがあるので、現在でも仏教用語といえる。 (2020年9月作成) |