味講座 に戻る 1.概要 暗黙知とは、ポランニーが提唱した概念で、英語ではtact knowledgeである。これに対するのは形式知で、英語ではexplicit knowledgeである。形式知が言語化された明示的な知識であるのに対し、暗黙知は言語化されない(あるいは言語化しがたい)知識である。そして、この暗黙知の果たす役割の大きいことが強調される。 2.味の理解における暗黙識の役割 暗黙識に注目するのは、この概念が、味の認識の理解に役立ちと考えるためである。ここでは知識でなく認識を対象にするので違和感がないように、暗黙知を暗黙識と言い換える。また、形式知の「形式」は、味の分野では馴染まないし、英語の意味も反映していないので、明示識と言い換える。 暗黙識を暗黙知の概念に準じて理解すると、イチゴ味や優しい味などの新しく登場した味は、以下のように説明できる。我々は五基本味と辛味・渋味だけを認識してきたが(明示識)、実はもっと多くのことを口腔内で認識していた(暗黙識)。これが活用されなかったのは、この暗黙識を言葉にできなかったからである。 ところが20世紀になると、暗黙識に言葉を与える人があちらこちらに現れた。その言葉が相応しい表現だと、使用する人が増える。その結果、イチゴ味や優しい味あるいはおふくろの味などたくさんの味名が生まれてきた。つまり、明示識になったのである。 (2020年9月作成) |