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味  感



1.概要

 味感はほとんど見掛けない用語であるが、国語辞典の多くでは項目になっている。そして、それらは全て、味感は味覚と同じと説明されている。ただし、触感と触覚も、辞書では同じと説明されるが、触感と触覚の意味は、実際には異なっている。味感と味覚の関係も、触感と触覚の関係と同じであると捉えれば、味の正しい理解に役立つ。

2.味の理解に活用したい味感
 味の分野では、味は五基本味だけという考え方が通説となっている。また、言語学者によれば、味覚は認識の内容を表現し、味は物体(食品)の属性を表現すると区別している。この二つの不思議な理解を正したい。そのためには、味感の活用が役立つ。

 味と味覚の関係は、香りと嗅覚、音と聴覚、外観と視覚そして触感と触覚の関係と同じであろう。ところが、用語をみると、香りと嗅覚、音と聴覚および外観と視覚は、両者で異なる語が使われている。これに対し、味と味覚および触感と触覚は同じ語が使われている。このうち、触感と触覚では、両方とも「触」を使っているが、「感」と「覚」で区別している。一方、味と味覚では、味感と味覚にならず、味は味だけである。これが、味と味覚の関係を誤解させている原因の一つと考えている。

 味と味覚の関係を誤解させているもう一つの原因は、味覚の使用頻度が高く且つ意味も非常に広いことにある。というのは、味覚の意味は、①感覚の種類、②認識のレベル、③認識の内容、④食品の属性そして⑤食品自体までの5つもある。味覚以外の感覚は、①~③までで、しかも③を意味することあまりない。それに対し、味覚は④は少し弱いが、③や⑤を意味することも多い。味は③~⑤を意味するが、③を意味する頻度は、味覚よりも低い。言語学者が味は④食品の属性を意味すると指摘する所以であるう。

 一方、触感の意味と触覚の意味は、明確に区別されている。その区別は、香りと嗅覚などと同様にみえる。つまり、触感は③認識の内容あるいは④物体の属性であり、触覚は①感覚の種類、②認識のレベルおよび③認識の内容である。両方とも③認識の内容を意味するのであるが、認識の内容を意味する場合は、触感を用いることが多い。念のために補足しておくと、触感や触覚が⑤食品自体を意味することはない。⑤食品自体を意味するのは、味と味覚に特有である。

 そこで味感を活用する。触感に倣うと、味感は③認識の内容と④食品(物体)の属性を意味する。味覚の意味は上述の通りで、社会的に確立している味覚の意味が急に変わることは期待できないが、味感と味覚を比較すると、味覚には③認識の内容だけでなく、①感覚の種類あるいは②認識のレベルの意味もあることが明確になる。そして、③認識の内容を意味する際には、味感の使用が多くなることが期待できる。そもそも、味感は味の下に感が付いた熟語で、味覚は味の下に覚が付いた熟語である。常識的には、味感が味の感じ(すなわち認識の内容)で、味覚は味の感覚である。

 このように理解すれば、別のメリットもある。味覚の認識の内容は、味覚で受容される感覚なので、具体的には基本味だけである。これに対し、味感の認識の内容は、味覚感覚だけでなく体性感覚に受容される感覚も含まれる。さらに、認識のレベルも感覚だけでなく知覚や認知も含まれる。したがって、味感だと基本味だけでなく辛味や渋味も含まれるし、優しい味やイチゴ味も含むことが理解されやすくなる。

(2020年9月作成)