1.日常用語の旨味の限界
旨味は中国から伝来した熟語で、「しみ」の音を伴っていた。該当する大和言葉がなかったためであろう。そのまま「しみ」として受容された。ただし、現在では旨味はもっぱら「うまみ」と読まれている。この旨味は「食品の旨い味」くらいの意味である。なお、後で(専門用語の)旨味を導入する都合から、この旨味は日常用語の旨味と呼ぶ。
日常用語が一般にそうであるように、日常用語の旨味の意味も広くて曖昧である。実際、食品のおいしさとの関連で専門家が旨味に言及することはほとんどない。稀に言及する場合には、(日常用語の)旨味はおいしさのことなどと説明する1)。専門家は、「旨味」の存在に否定的である。
グルタミン酸ナトリウム(MSG)などを添加すると食品がおしいくなる。この食品のおいしさ向上をこれまではうま味の効果で説明されてきた。しかし、うま味は快とはいえない味なので、食品のおいしさをうま味の効果で説明するのは無理がある。さりとて、意味が広くて曖昧な日常用語の旨味で食品のおいしさ向上を説明するのも説得力がない。
2.(専門用語の)旨味の導入
このような現状を打開するためには、専門用語の旨味を導入する必要がある。導入する旨味は「認識形成にうま味受容体が関与する特有の快な味」と定義した。この旨味であれば、旨味は快な味なので、食品のおいしさを無理なく説明できそうである。なお、導入する旨味は、専門用語の旨味と呼ぶべきであるが、この用語は本論のキーになる用語なので、ここでは単に旨味と呼ぶ。上で一般に使用されている旨味を日常用語の旨味と呼んだのはこのためである。
3.うま味物質による食品のおいしさ向上効果
上では食品のおいしさと記述したが、実は食品のおいしさの意味も曖昧である。食品のおしさの場合はしばしばおいしさと混同されている。食品のおいしさについても考察の対象として相応しいように規定しておく必要がある。ここで対象になるのはうま味物質を添加すると食品のおしさが向上する現象なので、「うま味物質による食品のおいしさ向上効果」とした。用語としては少し長すぎるが、やむを得ない。
これにより、旨味と「うま味物質による食品のおいしさ向上効果」との関係として論じることができる。つまり、旨味は「うま味物質による食品のおいしさ向上効果」の主な要因と説明できる。要因に「主な」と形容語を付しているのは、MSGなどのうま味物質はうま味受容体を活性化するだけでなく、基本味を増強するという報告2)もあり、この報告は信頼できるためである。
このように整理すると、旨味と食品のおいしさの関係が説明できる。
4.旨味とうま味の認識形成
上のような捉え方がこれまでに指摘されなかったのは、旨味のような知覚の味の存在に確信が持てなかったためと推量している。
そこで、旨味の存在をわかりやすく説明するために、下図の「旨味の認識形成におけるうま味受容体の役割の模式図」を作成した3)。この図には旨味とうま味の認識形成の仕組みを模式的に示している。その中核的役割を果たすのがうま味受容体として知られているT1R1/T1R3である4)。まず、MSGなどうま味物質により活性化されたうま味受容体はシグナルであるうま味情報を発出し、単独ではうま味を与える。これに加えて、うま味情報は食品からの嗅覚情報や(うま味以外の)味覚情報とともに脳内の眼窩前頭皮質で統合されて旨味を形成する。この仕組みを指摘した例は見当たらないが、気付いていた人も少なくないであろう。また、McCabeら5)によるMSGと野菜匂いの組み合わせが「a delicious flavor of umami」をもたらすとの報告がある。McCabeらはumami(うま味)しか知らないから、それが旨味であることを明示していないが、「a
delicious flavor of umami」が旨味であることは明らかである。下図よれば、うま味が感覚の味で旨味は知覚の味であることを明確に説明できる。
5.関連知見:うま味はT1R1/T1R3が与える味
本考察では、予期しない発見があった。うま味はMSGなどのうま味物質が呈する味とされているが6)、この常識は怪しい。というのは、MSGはうま味受容体だけでなく塩味受容体も活性化する。そうすると、MSGが呈するのはうま味と塩味の混合味のはずである。この味を下図ではMSG味と仮称している。うま味は「T1R1/T1R3が単独で与える味」である。確認しておくと、T1R1/T1R3だけを活性化するうま味物質は知られていない。この常識的と思える事実も、これまでに指摘されたことがなかった。

旨味の認識形成におけるうま味受容体の役割(模式図)
参考文献
1)二宮くみ子:「うま味」と「UMAMI」, 味のなんでも小辞典, 日本味と匂学会(編), p.238, 講談社 (2004).
2)Yamamoto, T, Inui-Yamamoto C: The flavor-enhancing action of glutamate and its mechanism involving the notion of kokumi, npj Science of Food, 7, Article number 3, (2023).
3)柳本正勝:旨味の認識形成においてT1R1/T1R3が果たす役割の考察, 日本味と匂学会第59回大会予稿集, p.85 (2025).
4)Nelson G, Chandrashekar J, et al.: An amino-acid taste receptor, Nature, 416, 199-202 (2002).
5)McCabe, C, Rolls ET: Umami: a delicious flavor formed by convergence
of taste and olfactory pathways in the human brain, European Journal of
Neuroscience, 25(6), 1855-1864 (2007).
6)Umami: ISO 5492; 2008: Sensory analysis ― Vocabulary, p.36.
(2025年10月作成)