1.脂のおいしさは香りやテクスチャーとされてきた
脂味は日本よりも欧米で注目されてきた。日本の旨味は欧米の脂味といっても過言ではない。とはいえ、欧米でも脂味が注目されるようになったのは比較的新しい。というのは、高脂肪含有食品のおいしさは香りやテクスチャーの効果とみなされてきたためである。
一方、味もあるはずとの常識もあったことと、脂肪の分解産物であるオレイン酸などの長鎖脂肪酸が脂肪酸受容体の刺激物となることが知られるようになると1)、脂味の存在が注目されるようになった
2.GPR120などの存在が確認された
GPR120はクラスCのGPCRである。脂肪酸受容体と呼ばれている。このGPCRが味蕾にも発現していることが知られるようになると、この脂肪酸受容体が脂味の認識形成に関与すると考えられるようになった2)。なお、脂味の認識形成に係る脂肪酸受容体はまだ確定していなくて、CD36も有力視されている。
3.オレイン酸などの脂肪酸の濃度が低い問題
脂肪の主成分であるトリグリセリドに呈味性はない。その分解物であるオレイン酸など長鎖脂肪酸が刺激物になると考えられている。ただし、オレイン酸などは口腔内での濃度が味の閾値濃度に達しないとされる。この事実が、脂味の認識形成にGPR120が関与するという主張の弱点となっている。
さらに、この分野の主な研究者が脂味は第六の基本味であるとの主張にこだわったことも3)、研究の進歩が停滞した原因といえる。脂味は知覚の味なので、基本味のはずがない。基本味かもしれないのは脂肪酸味である。
4.高脂肪化による食品のおいしさ向上効果
脂味が人々から関心を持たれているのは、食品のおいしさに寄与すると信じられているためである。ただし、この食品のおいしさの意味は抽象的で漠然としている。この場合は具体的には高脂肪化による食品のおいしさ向上効果が対象であるから、食品のおいしさを「高脂肪化による食品のおいしさ向上効果」と規定した。これにより、脂味が「高脂肪化による食品のおいしさ向上効果」に寄与するかが問われることになる。脂味の場合当然といえそうであるが、確認しておくことが大切である。
5.脂味の認識形成におけるGPR120の役割
この分野では脂味と脂肪酸味の区別がしばしば曖昧にされる。そこで、脂味と脂肪酸味は異なることを、下図の「脂味の認識形成におけるGPR120の役割の模式図」で説明する4)。脂味の認識形成は食品中に含まれる脂肪が分解されたオレイン酸などの長鎖脂肪酸がGPR120を活性化することから始まる。活性化されたGPR120は味細胞内での複雑な反応を経てシグナルである脂肪酸味情報を発出する。脂肪酸味情報が単独で与えるのは脂肪酸味である。脂味は、この脂肪酸味情報が脂肪高含有食品からの嗅覚情報や体性感覚情報および味覚情報と脳内の眼窩前頭皮質で統合されて形成される。したがって、この脂味は知覚の味であり、脂肪酸味は感覚の味である。だから、基本味と主張できるとすれば脂肪酸味の方である。なお、脂肪酸味は不快な味とされており、脂味は快な味である。脂味が「高脂肪化による食品のおいしさ向上効果」に寄与していることは明らかである。
参考までに付け加えると、オレイン酸など脂肪酸物質が呈するのは脂肪酸味だけではない。オレイン酸が呈するのは脂肪酸味と酸味およびチクチク感(scratchy)を伴った味である5)。下図ではオレイン酸味と仮称している。

脂味の認識形成におけるGPR120の役割(模式図)
参考文献
1)Fukuwatari, T. et al.: Role of gustation in the recognition of oleate
and triolein in anosmic rats, Physiology bihaovior, 78(4-5), 579-583 (2003).
2)Chale-Rush A, et al.: Am. J. Physiol Gastrointest Liver Physiol., 292, G1206-G1212 (2007).
3)Running, Cordelia A, Mattes, Richard D: Different oral sensitivities of short-, medium-, and long-chain fatty acids in humas: American Journal of Physiology, Gastrointestinal and liver physiology, 307(3) G381-G389, 2014.
4)柳本正勝:脂味の認識形成においてGPR120が果たす役割の考察, 日本味と匂学会第58回大会予稿集, p.93 (2024).
5)Galindo, MM, et al.: G Protein-Coupled Receptors in Fat Taste Perception,
Chemi. Senses, 37, 123-139, 2012.
(2025年12月作成)