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取り組みの概要


1.慣用味名の提案
 慣用味名を提案したのは、社会一般でも食品分野でも味の名称が広く活用されているにもかかわらず、味の分野では基本味だけが味という通説があることへの疑問であった。広く活用されている意味で、色の分野で使用されている慣用色名に因んで慣用味名と名付けた。慣用味名といえる4要件を設定し、この要件を満たす味名を慣用味名として採用した。そのうえで、基本味と慣用味名を中心に味の一覧表を作成した。また、慣用味名の位置づけを明確にするために、味名といえる根拠として生理学的根拠など4つにまとめ、慣用味名は言語的根拠のある味名であると整理した。

2.基本味系以外への展開
 上記で探索してきた慣用味名の要件①は「味が下に味が付く用語」であった。ところが、基本味名の上に修飾語の付く味名も存在することに気付いた。そこで、慣用味名の要件①を「味を意味する語が下に付く用語」に緩和して探索したところ、16種の基本味系慣用味名を採用することができた。
 なお、採用できたのは五基本味のうち甘味、酸味、苦味だけで、塩味とうま味は採用できなかった。また、甘味や苦味は実際には甘みや苦みの使用例の方が多いことがわかったので、基本味系慣用味名では下に付く語は甘みと苦みおよび酸味とした。以上とは別に取り組んだ、物質的根拠のある基本味修飾味でも同種の味名が採用されている。

3.例外中の例外としての単語表現系慣用味名
 元々基本味系慣用味名も(一般的な)慣用味名の例外とみなしていた。ところが、たとえば「こく」は下に味が付かない語であるけれど、それだけで味を意味する。味名を網羅するという目的からは採用するのが妥当である。そこで、要件①には「味を意味する語」も含まれることにした。

4.風味系慣用味名などへの展開
 基本味系慣用味名を採用したので、以前から存在に気付いていたレモン風味も緩和した要件①を満たすことから、改めて探索する必要があると考えた。風味系慣用味名を探索する過程で、風味と同義語である香味、フレーバー、味わいなどについても調べたところ、香味やフレーバーなどでは該当する慣用味名は見つからなかったが、味わいには該当する慣用味名が少なからず存在することがわかった。

5.慣用匂い名への展開
 慣用味名の探索調査が一段落したところで、同じ化学感覚である匂いについても探索することにした。手法は慣用味名に準じた。
 なお、匂いには機能する嗅覚受容体が多数(370程度)存在することがわかっているが、大脳の入り口(嗅球)で混合される。このために単独の嗅覚受容体が与える匂いすなわち生理学的根拠のある匂い名が存在しない。匂いに原香や基本香がないのは、このためである。なお、匂い名には慣用匂い名だけでなく物質的根拠のある匂い名や物体的根拠のある匂い名も存在することを確認しているが、ここで紹介するのは慣用匂い名に限った。

 参考として、慣用色名も付け加えている。慣用色名は筆者が探索したのではなく、JIS規格 Z 8102:2001「物体色の色名」からの引用である。

(2025年7月作成)