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渋味

渋味とは一般に「タンニンなどが呈する触覚性味」とされる。しかし、この説明は正確とはいえない。タンニンは、苦味受容体も活性化するためである。すなわち、渋味とは「タンニンなどが呈する触覚性味と苦味の混合味」である。この項目を「多感覚種性味」に含めている所以である。

 渋味はしばしば辛味と対にして語られるが、辛味が痛覚性味である。これに対し、渋味は触覚性味と苦味の混合味なので、両者の発現の仕組みは全く異なっている。

 なお、ここでいう触覚は、アリストテレス以来の体性感覚全体を意味する触覚ではなく、体性感覚の一種としての触覚である。この触覚は、圧触覚とも呼ばれる。触覚の受容器は、メルケル細胞とマイスナー小体およびパチニ小体である。

 日本味と匂学会が編集した味のなんでも小事典では1)、渋味を「口腔内の粘膜表面のタンパク質が渋味成分と結合することで引きつった感覚を引き起こす「触覚」だと考えられる」と説明している。

 広辞苑の“しぶみ”の項では「〔渋み〕①渋いこと。また、その程度」と語釈されている。“しぶみ”の項では渋みだけで、渋味は例示されていない。渋味は味でないとの見解を明確にしている。なお、広辞苑に“じゅうみ”の項目はない。

 中国語では、渋味は涩味である。渋と涩は異体字なので、渋味は中国から伝わった語と推察できる。それにしては、渋味には訓読み(しぶみ)だけがあって、音読み(じゅうみ)が残っていない。不思議なことであるためか、訓読みと考えている読み方が、実は伝わった時の読み方が訛ったものとする意見もある。また、朝鮮半島で渋味に変わったという説もある。いずれにしても、渋味は辛味と同じように、味の名称として伝わったと推定できる。

 渋味は、しばしば収斂味とも呼ばれる。収斂味は作用を表現しており、渋味は認識を表現している違いがあるだけで、両者は同じ味と考えている。ただし、異なる味とする意見もある。

 渋味が触覚性味と苦味の混合味であることは、ほとんど知られていない。ところが、全国茶品評会の審査基準では苦渋味というチェック項目があるが、苦味と渋味を一緒に評価するためという。食品分野ではおそらくはいちばん高度な官能評価を実施している茶分野では、渋味の本質を経験的に見通していたことになる。

 渋味の存在がよく知られている食品に、お茶とワインおよび柿がある。いずれも、タンニンによる。お茶の渋味はタンニンの一種のカテキン類(エピカテキン、エピガロカテキン)である。ワインのタンニンはブドウの果皮や種子に由来するが、種子由来のタンニンは嫌われる。柿の渋味はプロアントシアニンである。柿タンニンと呼ばれることもあり、国際規格のISO 5492(官能評価用)では、astringent(渋味)の基準物質として「kaki tannins」を挙げている。柿の渋味が肯定的に捉えられることはないが、お茶やワインの渋味は、味を複雑にするものとして、しばしば肯定的に語られる。

  本格的なお茶では渋味の存在が肯定的に評価されているが、ペットボトルのお茶には渋味はほとんど感じられない。渋味の好ましさは、生得的あるいは刷り込みではなく、学習によるとところが大きいと考えられる。

 渋味調味料は知られていない。というよりありそうにもない。まずい味には調味料がないとすると、渋味とともに苦味やえぐ味が該当する。

1)山田恭正:渋味ってどんな味, 味のなんでも小事典, 日本味と匂学会(編), 講談社, p.80, 2004.

(2019年12月作成)(2025年3月訂正)