米と野菜および清酒の3食品には、うま味物質はあまり含まれていない。すなわち、これらの食品に感じられている「うま味」は、うま味物質では説明できない。これらの食品の「うま味」は、肉や昆布の「うま味」とは当然異なるはずである。また、3つの食品は、それぞれ別の仕組みで感じられているであろう。では、この「うま味」はどのような味と推量できるできるだろうか。
一応の手掛かりのあるのは、米に感じられている味である。というより、ご飯に感じられている味である。というのは、以前にご飯に感じられている「うま味」を調査したことがある。その結果、ご飯にはレトロネイザル香が関与する「うま味」が感じられているという結論を得た1)。そして、この「うま味」をおいし味と名付けた。残念ながら広く認められたとは言い難いが、今回の分析でも支持されたと、意を強くしている。
野菜は、「うま味」が感じられている代表的な食品であった。また、トマトのように,うま味物質を含むとされるものも少なくない2)。とはいえ、食品群である野菜に対してのどのような認識がうま味と表現されるのかは、まだ手掛かりも掴めないでいる。身近な人の意見を聞いたところでは、「かすかな甘味をうま味と表現しているのでは」とか「健康のイメージからうま味を連想しているのでは」との答えであった。一理はあるが、納得のいく見解でもない。
清酒の「うま味」を推察することはもっと難しい。しかし、清酒には、うま味(古くは旨味)を官能評価用語として活用された長い歴史がある3)。それは、確かな認識であったと信じられる。改めてその妥当性を確認し、それに相応しい味の名称が提案されることを期待したい。それが清酒の魅力を発信するツールになる可能性がある。
1) 柳本正勝:ご飯における各基本味の好ましさ, 精米工業, No.276, 8-12 (2016).
2) 特定非営利活動法人うま味インフォメーションセンター(うま味を多く含んだ食品):http://www.umamiinfo.jp/
3) 唎酒研究会東京部会:唎酒用語アンケート(第1部)の分析結果, 醸造協会雑誌, 55, 707-687 (1960).
(2020年5月作成)