「うま味」が感じられているとみなした9食品のうち、魚、肉、豚肉、トマト、昆布および出汁の6食品は、うま味物質が多く含まれるとされている。これらの食品では、「うま味」にうま味物質が係わると推定できる。念のために付け加えると、これらの食品に感じられているのは「うま味」であって、基本味のうま味ではない。そこで、これらの食品に感じられている「うま味」とは具体的に何かを考察したいが、その前に「うま味」が味の一種であることを説明する。
この「うま味」は、基本味のうま味を含む複数の味覚情報が脳内で統合された知覚である。一方、基本味のうま味は単独の味覚情報による感覚である。従来は、味は感覚だけという常識があったので1)、知覚である「うま味」を味と呼べなかった。しかし、味以外の官能特性では知覚も含めている。たとえば、香りは複数の嗅覚情報が統合された知覚であり、色も3原色以外は複数の色覚情報が統合された知覚である。
また、「うま味」と同じような事例に、コク味物質を含む食品が呈するコク味がある2)。コク味も複数の味覚情報が統合された知覚である。さらに、「うま味」は味覚ではないが、舌識には含まれる。ここに舌識は、舌による認識(意識)と捉える。舌識は日葡辞書に“味覚”と説明されており3)、近世以前には味覚に対応する語であった。しかも、舌識であれば、知覚も含むはずである。以上の事実から、「うま味」は知覚であるが、味の一種とみなすのが妥当である。
「うま味」が味の一種だとすると、この味の存在を明確にするためにも、味の名称が欲しい。これに関し、筆者はうま味物質を含む食品の好ましい味を旨味と名付けることを提案している4)。旨味は社会で自然発生的に使用される用語であり、特定の意味を持つ語ではない。ただし、本項の分析でも、「うま味」が感じられている9種の食品のうち6種がうま味物質を含む食品であった。うま味物質が関与する「うま味」は、日本人に広く好まれてきた。したがって、旨味をうま味物質の関与する「うま味」の意味と捉えることには一定の合理性がある。
1) M-ISO 5492: Sensory analysis -Vocabulary, p.7 (1992).
2) 宮村直宏・丸山豊:CaSRアゴニストの官能特性(「コク味」), 日本味と匂学会誌, 19, 205-213 (2012).
3) 石塚晴通(解題):パリ本日葡辞書, 勉誠社 p.141, (1976).
4) 柳本正勝:和食の味・“うま味”の用語に関する考察.フードシステム研究 23, 283-288 (2016).
(2020年5月作成)