我々が世界の三大料理と信じているのは、フランス料理・中華料理・日本料理である。このうち日本料理は、料理の出し方に関し他の料理と明確に異なる。すなわち、フランス料理や中華料理は一皿ずつ供応されるのに対し、日本料理では最初に全部の料理が出てくる。家庭料理でも同じで、日本では全部の料理が最初から食卓に並んでいる。その結果、料理の食べる順序は喫食者個人に委ねられている。
このように食べる順序は個人に任されているはずなのに、世間には妙な俗説が出回っている。その代表的なものは、おいしい物は後回しにするというものである。この俗説はフランス料理や中華料理で
もメインディッシュが後から出てくることと符合している。ところが、これは食事を楽しむという視点では間違っていると考えるようになった。その理由と、本来どうあるべきかを申し述べる。
結論からいうと、最初にいちばんおいしい(好きな)物を食べるのが正しい。というのは、食べ物のおいしさはしばしば最初の一口である。テレビを見てもグルメ本を読んでも語っているのは最初の一口である。となると、おいしさを楽しむためには、最初にいちばんおいしい物を食べるのが合理的である。一般に料理は出来たてがおいしいので、いちばんおいしい物はなるべく早くという意味もある。
次に、2番目においしい物は最後に食べよう。これは最後に食べたものが印象に残り、食事全体の評価に強く影響するためである。サービス業ではお客様が帰る時の印象を大切にしている。おいしかったと思いながら食事を終えることは、次の食事を楽しむことの財産となる。
この間に食べるものは常識的な順番となる。出来たてと冷めたものの差が大きい料理は早めに食べた方が良いし、嫌いだけど食べなければならないものは早めに済ませておいた方が心の負担を軽減できる。ご飯とおかずは交互に食べて口腔内調味を楽しむのが我々の得意とするところである。家庭ではいつもの料理が一般的と思われるが、それでもいつもと少し変わっているように見える料理があるかもしれない。このような料理を見つけた時は早めに味見をしておこう。その後の食べる順序計画を立てるのに役立つ。
最後に例外について触れておく。ご飯の取り扱いである。自信のある銘柄米を使って首尾良く炊飯されたご飯が炊きたてで供膳された場合は、ご飯を最初に食べよう。米と水だけでできたご飯の真味を味わうことは、おかずや味噌汁を食べた後では堪能できないからである。
(2013年12月作成) |