おいしい食品を創る秘訣
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 食品企業や農産加工グループにとって、おいしい商品を提供することが販売促進の基本である。安全性を確保することは食品関係者にとって当然の責務であるが、安全性を確保すればよく売れるというわけではない。食品売り場では、消費者はおいしさへの期待と価格を比較して、購入する商品を選択する。

 ここでは、おいしい食品を創るための秘訣を提供する。結論を言うと、@無難、A味、Bらしさ、Cキラリの4つをキーワードとして商品のおいしさを吟味することである。この4つのキーワードは、長年に亘って商品開発に携わった成功体験のエキスではないので、このキーワードに従って商品開発すれば成功するというのではない。 しかし、おししさについて長年取り組んで得た結論であり、おいしさと快感に関する知見に裏付けられているので、特に商品企画を具体化する際に、あるいは試作品を吟味する際に製品をチェックするのに役立つ 。

 4つのキーワードは同列ではなく、一応の順位付けがある。すなわち若い番号に係わる品質が悪ければ、後ろに係わる品質の上げても一般に無意味である。キラリと光ったものがあっても、味が悪ければ受け入れられない。味が良くても、食べ難 いのであれば台無しである。ただし、キラリのために味を多少犠牲にすることはあり得る ので、それほど単純ではない。以下にキーワードの意味を順に説明する。

 @無難とは、消費者が食べる際に困難がないことである。味や香りが耐えられないこともあるし、咀嚼が困難であるとか飲み込み難いことも多い。ほとんど食べられない困難もあるし、少数の人が多少引っ掛かる程度のこともある。安全性が問題になる場合も含まれるし、心理的な困難も含まれる。食べることは異物を体内に取り込むことなので、人間は本来的に警戒感を持っている。一方で、 生命を維持していくには食べないと都合が悪いので、食べること自体に快感を感ずるような仕組みが備わっている。無味無臭の水をおいしく感じることができるのは、食べること自体が快感であることを示している。しかし、食べることに困難があれば、最低限の快感も得られない。

  A味とは、味を中心にした感覚特性の受容結果である。ただし、効果の良否が明確なのは味と匂いなので、味と匂いが中心になる。なかでも味の影響が大きいので、キーワ−ドとしては分かり易 さを重視して味の用語を採用した。味の重要性は、味覚が食に特化した感覚であることから推量できる。実際、食味や味覚がしばしばおいしさと同じ意味で用いられる。個人的に は味をあまり重視することには、疑問を持っている。食品のおいしさは味に代表される感覚特性だけで決定されるのではないし、現在では良質な調味料が 安価に入手できるので、そこそこの味であれば容易に演出できる。とはいえ、味が重要なことは認めているので、二番目として挙げた。

  Bらしさとは、消費者がまぐろならまぐろらしく、カレーならカレーらしいと感じる要素である。ここにらしさには良否の評価が含まれていることを確認しておく。記憶というと数式や漢字の筆順を思い起こすが、食を含めた生活体験の記憶には好ましさが付随している。らしさは人の記憶 なので、個人に依存するところが当然大きくなる。人によりまぐろらしいとか、カレーらしいと感じる要素は異なる。つまり、これまでの食経験を通じて好ましい食品像の記憶をそれぞれの人が持っている。開発あるいは販売の担当者が集まって試食する場合、消費者と年齢・地域・性別などの構成が異なっていれば、正しい結果は得られない。

 Cキラリとは、消費者を歓ばせるとか心の琴線に触れる要素である。具体的に何が消費者を歓ばせたり琴線に触れるかは自明のことではない。その具体的な内容はほとんど雲を掴むような話である。何がキラリになるかは、世相・売れ行き動向・苦情内容などから開発責任者が読み取るしかない。キラリが大事なのは食品分野に限ったことではない。というより 、食品はむしろ重要性が高くない分野である。だから、食品分野ではこれを軽視する風潮にある。確かに、上の3つのキーワードの要素が優れていれば、キラリは必ずしも必要ない。しかし、食品を見てあるいは食べて、消費者が何か嬉しい気持ちになれば、商品としての価値は当然高まる。ここで指摘したいことは、キラリは時とともに変化する。昨年注目された商品が、今年には飽きられていることも少なくない。定番になった自負している商品も、いつの間にかじり貧になっているものである。キラリを読み解く際の一つの参考は「日本人の嗜好の特徴」なので、一度お読みください。

 この秘訣は、本サイトの「おいしさと脳の係わり」に関する知見が背景にあ るので、関心をお持ちいただいた方にはこちらもご覧ください。

(2013年9月作成)(2014年6月改訂)