おいしさの探究に戻る


味が必須で中核的役割


基本味は5種しかないが、このうち感じられると一般に好ましい味は、甘味とうま味の2種とされている。しかも、うま味が単独で好ましい味かは疑わしい。これでは、基本味で「おいしさ」を説明するのは困難である。したがって、「おいしさ」には五感が総合的に係わるという説明に反論できなかった。

 一方、味の一覧表には68種もの味が含まれている。このうち感じられると一般に好ましい味が、下表のように39種もある。39種もの好ましい味があれば、「おいしさ」を味で説明できそうである。

 この39種の味と68種の味全体との比率を大カテゴリーごとにみると、「単独物質味」に含まれる味が2/15と比率が低いことに気づく。これに対し、「複数物質味」は7/9、「食品一括味」は30/44で、比率がかなり高くなっている。この事実は、単独の味覚情報(あるいは体性感覚情報)に由来する味が好ましいと感じられるとは少なく、「複数物質味」とか「食品一括味」のように、味覚情報が嗅覚情報などと統合されて発揮される味が好ましいと感じられていることを示している。

 上述の39種の味のうち、味の強さにかかわりなく好ましい味が27種ある。さらにこのうち、味覚情報だけに由来する味が、甘味・甘酸っぱい味・甘辛味・旨味・コク味の5種もある。このように、香りやテクスチャーが関与しなくても好ましい味が5種も存在することは重要である。この特徴は、香りやテクスチャーには認められない。味が「おいしさ」に必須であることを示唆している。また、多くの食品に共通して好ましい味も33種ある。すなわち、食品横断的に好ましい味が多数存在する。香りやテクスチャーでは食品毎に好ましい特性が異なる。この事実は、味が「おいしさ」において中核的役割を担っていることを示している。

これらの事実から、「おいしさ」においては、味が必須であり中核的な役割を担うと推論できる。

この結論の蓋然性は十分に高いと信じるが、あくまでも状況証拠に基づく推論である。科学的根拠に基づいた結論ではない。とはいえ、「おいしさには五感が総合的に係わる」という専門家の見解にも、科学的根拠はない。基本味だけでは説明できないという状況証拠にすぎない。これに比べると、一応の根拠を具体的に示している。そして、この推論を支持する客観的な事実を3つ挙げることができる。

 まず、上でも言及しているが、香りもテクスチャーも、単独では「おいしさ」を発揮することはない。また、香りやテクスチャーが味以外の官能特性との組合せで「おいしさ」を発揮することもない。これらの事実は、味が「おいしさ」に必須であることを示している。

次に、おいしさは食品が口腔内にある時(あるいは嚥下直後)に感じられる快感であり、味覚は食品からの刺激を受容することに特化した感覚である。この二つの事実は、生物の合目的性からも、味覚に由来する味が「おいしさ」において中核的役割を担うことを支持している。

 そして、クサヤやドリアンのように、強烈な悪臭があってもおいしいと感じさせる味が存在するのに対し、えぐ味のような強烈にまずい味をおいしく感じさせる香りやテクスチャーは存在しない。これらの事実は、「おいしさ」において味が必須であり中核的役割を担っていることを支持している。


                     表 一般に好ましい味

(2020年4月柳本作成)