旨さとおいしさは、一般的には同義語とされている。実際、旨さとおいしさの対義語は、どちらもまずさ(不味さ)である。また、おいしさは美味しさとも表記されるが、旨さも美味さと表記できる。とはいえ、きちんと比較すると、旨さとおいしさでは、ニュアンスがかなり異なる。
おいしさと旨さの意味を比較する。おいしさと旨さは、どちらも食べた時の快い感じを表現している点で一致している。ただし、おいしさには感覚特性だけでなく食品情報もさらには生理状態や心理状態そして食事空間など多様な要素が係わるのに対し、旨さに係わるのは感覚特性や生理状態あるいは心理状態だけで、食品情報や食事空間の係わりはほとんどない。おいしさに比べると、旨さは感覚特性のウエイト高く、中でも味に重点が置かれている。
言語的に比較すると、旨いの体言化には、旨さとともに旨みもある。おいしいの体言化は、おいしさだけでおいしみはない。この事実は重要である。おいしいも旨いも感情形容詞であるが、旨いはおいしいよりも属性形容詞の要素が強いことを示しているからである。
歴史的にみると、おいしさは女性語で、旨さが男性語であった。かつては男性社会だったので、旨さが一般的な語であった。現在では、おいしさが一般語になっている。このような例は珍しい。嘗ての旨さの意味が、現在のおいしさの意味に変化できなかったためであろう。