病みつきはおいしさに係わると思われながら、そうと明言するのには躊躇があるようにみえる。逆に、無視するにしては、気掛かりという代物でもある。どちらも快感を伴う点で似ている。ところが、おいしさは美味しさと表記されるように、好ましい状況と理解されているのに対し、病みつきは字が示すように、好ましくない状況と理解されている点で異なる。病みつきとおいしさの関係がほとんど論じられていない。
広辞苑の病みつきの項では、「@病みつくこと。病気のかかりはじめ。Aある事に夢中になり、やめられなくなる状態」と語釈している。ここでいう病みつきは、Aの状態に近い。
おいしさと病みつきは、脳内での発現部位と関与する脳内物質も異なる。おいしさに関与する物質は、β-エンドルフィンとベンゾジアゼピンである。これらは、大脳辺縁系の扁桃体で放出される。病みつきに関与する物質のドーパミンは中脳の腹側被蓋野で放出される。脳科学的には、報酬系と呼ばれる。
病みつきは、食品分野特有の現象ではない。社会的にはむしろギャンブル依存症、ゲーム依存症が問題になっている。このような症状は食品分野も無縁ではない。典型的な例としては、アルコール依存症がある。マヨラーなどもここに含まれるかもしれない。
食品で病みつきになることが多いのは、清酒・ビールなどのアルコール飲料とお茶・コーヒーなどの飲料である。アルコール飲料の原因物質はエチルアルコールであり、お茶などの原因物質はカフェインである。アルコールには麻酔作用があり、カフェインには覚醒作用がある。依存症は、これらの作用により起きる。これらの作用が極端に強いと、中毒症状を引き起こす。お酒による中毒被害の典型的な例は、一気飲みによる死亡事故である。
おいしさと病みつきの関係について、病みつきを軽度な病みつきと重度な病みつきを区別するのが妥当と考えられる。すなわち、軽度な病みつきは好ましい影響が主であり、おいしさの一部とみなす。一方、重度な病みつきは悪影響が顕著となるので、おいしさとは無縁とみなす。重度な病みつきは、依存症にすぎない。なお、重度な病みつきになっている(アル中の)本人は、お酒がおいしいからと信じている。一見矛盾するが、本当はおいしいのではなく、止められないだけである。
軽度な病みつきと重度な病みつきを区別することは、一般には容易でないが、食品分野においては、比較的容易にその判断基準が想定できる。食事の栄養バランスが維持できていることと、副作用が軽微なことであることである。食事の栄養バランスは、厚生労働省が出している「日本人の食事摂取基準」から著しく逸脱していないかで判断できる。食事の栄養バランスが崩れるほど、アルコールに依存した食生活は健全でない。副作用は医学的診断で判断できる。副作用による弊害が明確な食生活も健全でない。おいしさは、健康的な食生活が前提である。
(2020年5月作成)(2021年6月修正)