このページでは、中要素・小要素レベルで、これまではほとんど指摘されることがなかったけれども、特に重要と考えるポイントを補足として説明する。これらは、3つの大要素のいちばん上に並べている。
まず、人に係わる要素について。一般的には中要素として生理状態と心理状態が上に掲げられる。にもかかわらず、この一覧表では敢えて食選好とした。そして、ここに小要素の嗜好、やみ付き、こだわりの三つを含めている。嗜好の重要性はよく指摘されるけれども、構成要素の中での位置づけは曖昧で、しばしば無視されてきた。やみ付きやこだわりは、否定的側面が強調され、おいしさの構成要素に含められることはない。しかしながら、お酒やコーヒーが広く嗜まれていること、おふくろの味や故郷の味への願望は、やみ付きやこだわりでしか説明できない。食選考の導入は、おいしさが人の感情であることを反映している。
食べ物に係わる中要素では、味・テクスチャー・香りとしているのは一般的であるが、味の小要素は甘味・酸味などの個別の基本味とせずに、基本味と表在感覚性味、混合・統合味そして食品一括味とした。食べ物のおいしさに係わる味の役割は、基本味だけでは説明できない。このために、専門家はしばしば、食べ物のおいしさには味よりもテクスチャーや香りの方が重要と指摘する。基本味だけと比較するなら、説得力のある意見でもある。しかし、常識的には食べ物のおいしさには味がいちばん重要である。つまり、味には基本味とともに食品一括味のイチゴ味や旬の味そして優しい味なども含まれるからこそ、味が食べ物のおいしさに必須で中核的役割を果たせるのである。
食事空間では、共食者をいちばん上の中要素にした。食事空間は食環境とも表記されることも多いが、食事空間でいちばん重要なのが共食者である。誰と一緒に食べるかは、食事の場のほとんど決定的な要素である。中要素の共食者には、小要素として、家族・友人、上司・客、そしてなし(孤・独食)を挙げている。家族・友人が好ましい場になり、上司・客は好ましくない場になる。もう一つのなしは、一般的には孤食とされることが多いけれども、ここでは敢えて孤・独食とした。孤食と独食があるという意味である。確かに子供の場合、一人で食事するのは好ましくないので、孤食と呼ぶのが相応しい。しかしながら、大人の場合は必ずしもそうではない。もちろん大人でも家族や友人と一緒の方が食事はおいしくなるであろうが、無理に求める必要はない。人生経験豊富な大人特に高齢者には、独りでも食事を楽しむ力が備わっている。
ここではおいしさの構成要素を表としたが、おいしさの構成要素は図示されることの方が多い。その方が、おいしさの枠組みが把握し易い。表にした欠点を補うために、3大要素の関係を示したのが下図である。下図に示しているように、3大要素とはいいながら、実は人に係わる要素と食べ物に係わる要素が主役で、食事空間に係わる要素は脇役である。そのうえで、人が主体で食べ物は客体と理解する。この理解は、川端1)が提案したものを導入した。人が主体というのは、おいしさと直接繋がっているのは人のためである、食べ物もおいしさに必須であるが、食べ物のおいしさは、人が感じているおいしさが食べ物に写像されたものである。したがって、食べ物は客体と呼ぶのが相応しい。
1)川端晶子:おいしさの科学, 調理学, 川端晶子・畑明美(共著),建帛社, pp.22-41, 2002.