おいしさの探究に戻る

外国語資料にあるおいしさの定義



 「JIS Z 8144官能評価分析ー用語」では、palatabilityをおいしさと訳して、おいしさを「摂取された時、好ましいと感じさせる性質」としている。これをみると、欧米にもおいしさの定義があるようにみえる。しかし、palatabilityは食味とはいえても、おいしさとはいえない。

 おいしさは、英語ではdeliciousnessまたはgood tasteである。このうちgood tasteは、定義をする対象としては不向きである。そこでdeliciousnessの定義をGoogle ScholarやNDL ONLINE(国会図書館)で探索すると少数はヒットするが、内容をみると、おいしさの定義の資料とはいえない。

 筆者が見つけられないだけでなく、日本にはおいしさを定義した資料あるいはそれに類する説明は少なくないが、英語などの定義を引用した例はない。つまり、一般的な探索方法では見つからないと信じられる。

 英語には広く認められたおいしさの定義が存在しない。この事実が、おいしさ理解の混乱の背景にあると信じられる。

 Palatabilityの定義ならある。最初に述べた「JIS Z 8144官能評価分析ー用語」の元資料はISO 5492: 2008「Sensory analysis―Vocabulary」である。ここではpalatabilityを「quality of a product which makes it pleasant to eat or drink(飲食するのに快い製品の品質)」と規定している。また、一般的な定義としては、Yeomans1)の「the hedonic evaluation of orosensory food cues under standardized conditions(標準化した条件下での食品による口内感覚の快さ評価」)がある。

 フランス語にはgastronomieがある。これもおしさとか美味学と訳されることもある。しかしながら、これは読者を惹き付けるための恣意的な誤訳であろう。Gastronomieの訳語は、美食術とか美食学が相応しい。


1)Yeomans M.R.,: Taste, palatability and the control of the appetite, Proceeding of the Nutrition Society, 57, 609-615 (1998).

(2022年11月作成)