1.六言語における慣用味名の数
2.全体の比較
日本語以外では、慣用味名を網羅したとはいえないので、慣用味名の数はこの順の通りとはいえない。しかしながら、日本語は特に多いことから、日本語が慣用味名のいちばん多い言語と推察できる。
また、東アジアの言語で多く、欧米の言語では少ないことが指摘できる。
3.各言語における慣用味名の特徴
英語には、慣用味名が案外多かった。アメリカ英語の方がイギリス英語よりも多かったことは、フランス語とドイツ語で少なかったこととの関連が推定される。また、英語だけに「形容詞化食品名型」と名付けたカテゴリーの慣用味名があった。
中国語も、予期したよりも少なかった。中国語では味や味道の上に一語だけが付く慣用味名が多い。中国語の特徴であろう。一方、味道に二語以上が付いた慣用味名は、郷里・家族への愛着を表現したものであった。
フランスは美食の大国とされている。にも係わらず、11種しか採用できなかった。また、「食品名型」の慣用味名が少なかった。フランス語では、saveurが下に付く候補用語は慣用味名に採用できなかった。
韓国語は、外国語の中では慣用味名の数がいちばん多かったが、日本語とは大差があった。韓国語には味の表現が豊富と言われていることを考慮すると、やや意外である。また、韓国語の慣用味名には、日本語と共通する慣用味名が特に多かった。
ドイツ語は、慣用味名がいちばん少なかった。フランス語とともに少ないが、ドイツ語では複合語しか採用できなかった。また、「食品名型」が相対的に多いことが指摘できる。
日本語の慣用味名が特に多いのは、日本人特有の繊細さが背景にあると推察できる。また、日本人は料理のおいしさを味で表現する習慣のあることが、慣用味名の多いもう一つの理由であろう。
〔トピックス〕 Tasteの意味は特異的
日本語の味は、英語ではtasteとflavorに、フランス語ではgoûtとsaveurに区別されている。中国語、韓国語、ドイツ語では、それぞれ味(wei)、맛(mas)、geschmackが日本語の味と一対一で対応する。
採用された慣用味名をみると、英語ではflavorが下に付く用語が大部分であるのに対し、フランス語では全てがgoûtが下に付く用語であった。Tasteはgoûtと、flavorはsaveurと対応するので、慣用味名の下に付く語が英語とフランス語では異なる。つまり、goûtは他の4言語の味と同じように慣用味名にも使われているが、tasteはあまり使われていない。
英語は、共通言語として世界標準となっているが、慣用味名をみるかぎり、tasteの意味を世界標準とみなすのは適切でない。
(2022年8月作成)