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物体的根拠のある味


1.物体的根拠のある味とは
 物体的根拠のある味とは「特定の物体が全体でもたらす認識であることを根拠にした味」である。ここに物体的根拠は物質的根拠と対応させるために「物体」と呼んでいるが、味の場合は実質的に食品を意味する。また、“物体が”の後に“全体で”を付しているのは、物体の味には物体全体の味とともに物体に含まれる個々の物質の味も呈しているためである。


2.物体的根拠の要件

 物体的根拠のある味といえる要件は、@味が下に付く用語である、A食品名が上に付く名称である、B味の名称が相当に広く使用されている、およびC味をもたらす標準参照品が明示できることである。
A食品名が上に付く名称であることの要件は、刺激である物体と味の認識の因果関係が明確であることの要件を具体化したものである。この要件を満たさない味も物体的根拠のある例が存在するかは、今後の検討課題である。B味の名称が相当に広く使用されていることは、言語的根拠でも似た要件を課している。こちらの方が判定基準値を緩和している。Cの標準参照品を課していることが、物体的根拠の特徴である。この要件は、物体の成分の組成や含有量の変動が大きいことに対処するために必要である。

3.確認している味
 
物体的根拠のある味として確認しているのは「味の一覧表」に含まれているのように24味である。具体的には、レモンの味や抹茶の味などである。24味全てが「食品名+の型」のカテゴリーに含まれている。このうち9味は言語的根拠もあるので、物体的根拠だけのある味は、大根の味やチョコレートの味など15味である。「食品名連結型」に含まれる多くの味にも該当する例が存在すると推測できる。しかし、「食品名連結型」はイチゴ味のように、イチゴ自体の味ではなく、イチゴで味付けられた別の食品(たとえばアイスクリーム)の味を意味することが多い。このために、現在は対象から外している。

4.物体的根拠の特徴
 
物質的根拠と物体的根拠を比較すると、物質的根拠では単純系である化学物質を対象としているのに対し、物体的根拠では複雑系である食品を対象とすることに違いがある。味の認識が不確かな上に、物体的根拠では物体(食品)に含まれる化学物質の組成や含有量の変動も大きい。このために、物体的根拠は物質的根拠より劣位であるだけでなく、そもそも物体的根拠が味といえる根拠になるのかという疑問すらある。一方、生活における馴染みがあるという点は、物体的根拠が優位である。生活に馴染みがあることは、味名が自然発生的使われる機会が多いことを意味する。そして、一旦使用されるようになるとその味名がコミュニケーションで使用される機会が多いことでもある。その結果、味名が社会的に定着しやすい。
 言語的根拠と比較すると、直感的には物体的根拠の方がわかり易い。とはいえ、案外そうでもない。物体的根拠が物質的根拠より優れている一般社会で馴染みに関しても、言語的根拠は味名が馴染まれている程度を指標にしている。物体的根拠が言語的根拠よりも有利なのは、特定の食品の官能評価で使用される味の評価用語である。問題点も指摘できるのでまだ物体的根拠のある味として採用できていないけれども、官能評価用語には物体的根拠のある味が見つかると考えている。

5.物体的根拠の妥当性
 物体的根拠では、味の認識が不確かなことに加えて、物体の成分の組成と含有量の変動が大きいという事情がある。このために、物質的根拠に比べて、妥当性が低いように思える。上では、物体が人々の生活に馴染んでいることを説明した。これに加えて、我々は、物体を一体として評価する能力に長けている。つまり、我々は犬をみると、あれこれ調べなくても一瞬に犬と判定できる。この能力があるので、トマトを口にすると固体食品では一瞬とはいかないがそれでも直ぐに「トマトの味」と判定できる。一般に考えられているより、物体的根拠も確かと信じられる。

(2023年11月作成)