トップページに戻る


うま味

うま味は基本味の一つで、日本人が発見した味である。池田菊苗が昆布の煮出汁の味をうま味と名付けた1)。そして有効成分としてグルタミン酸ナトリウムを分離し、池田によればグルタミン酸ナトリウムもうま味を呈した。うま味はタンパク質やアミノ酸のシグナルとされている。

 うま味には特有の受容体が存在すること特有の伝達経路が存在することなどが明らかとなり、うま味が基本味の一つであることが国際的に認められた。新しく発見された味が基本味として認められたのはこれまでにうま味だけである。このことにも日本人が主導的役割を果たした。これを反映してうま味は英語でもumamiとして通用する。

 代表的なうま味物質は、グルタミン酸ナトリウムとイノシン酸二ナトリウム及びグアニル酸二ナトリウムである。したがって、うま味はアミノ酸・核酸の味と呼ぶことができる。貝類のコハク酸やお茶のタウリンもうま味物質と主張されたが、多くの専門家はこれを認めていない。

 うま味は一般に「グルタミン酸ナトリウムが呈する味」と規定されている。しかし、この説明は正確でない。グルタミン酸ナトリウムはうま味受容体だけでなく塩味受容体も活性化して、うま味と塩味の混合味を呈するためである。したがって、うま味とは「T1R1/T1R3(うま味受容体)が単独で与える味」と説明するのが正確である。なお、うま味受容体だけを活性化するうま味物質は知られていない。

 また、うま味は語感とは異なり快とはいえない味である。したがって、うま味で「うま味物質による食品のおいしさ向上効果」を説明するのは無理がある。専門家でもしばしばうま味があたかも快な味であるような説明をするので、留意する必要がある。

 グルタミン酸ナトリウムとイノシン酸二ナトリウム、グアニル酸二ナトリウムとの間には、相乗作用がある。この相乗作用は非常に顕著であって、味覚分野おける相乗作用の代表例である。

 うま味の受容体(T1R1/T1R3)は、甘味の受容体(T1R2/T1R3)と構造が非常に似ている。この受容体の類似性は偶然であろうか。実際、甘味受容体を欠損したハチドリは、うま味受容体を進化させ糖受容能を獲得したという。うま味受容体は甘味受容体に変換可能であることになる。ただし、受容体が機能変換することは、必ずしも珍しいことではない。

1) 池田菊苗:新調味料に就いて, 東京化学会誌, l30, 820-836 (1909).

(2017年1月作成) (2025年10月再訂)