金属味とは「硫酸第一鉄(七水和物)が呈する味」である。特に硬度の高い水とか長期間保存した昔の缶詰食品に感じられる味とされている。金属味が好ましいとされるケースは知られていない。
辞書の類いで見つかったのは、総合調理科学事典だけで「食品に溶解した微量の金属イオンの味で不快味の一種である。」と説明している。
金属味も、味に繊細なはずの日本人に馴染みがなく、欧米人が感じているという不思議な味である。日本人に馴染みがないのは、水は軟水であるし、金属が大量に溶出するような缶詰がなくなってから久しいためかもしれない。
欧米人、少なくとも欧米の科学者には、馴染まれている味である。たとえば、国際規格であるISO 5492(官能検査用語)でもかつては基本味とされていたし、最新版でも基本味である可能性をわざわざ注記している。またISO
3972(味の感受性を試験する方法)には、試験対象として五基本味プラス1の味に採用されている。
日本では、金属味はスプーンなどの食器、水中の鉄などのミネラルおよび歯の装着物に起因する電流に由来するとした説明が散見される。しかし、欧米人が指摘する金属味を我流で解釈した意見にみえる。一般に合理的な考え方をする欧米人なら、電気味なり電流味と名付けるはずである。また、基準物質も示されているのだから、舐めて確認して欲しい。
少なくとも欧米では、金属味は認識されているが、受容体の発現が立証されていないので、基本味とみなすことはできない。だからといって、味であることを否定するのはのは適切でない。欧米の専門家がいうことは一般に合理的である。そこで、味覚性味であるという根拠は何もないのであるが、暫定的に味覚性味とみなした。味の一覧表では、中カテゴリー「味覚性味」の小カテゴリー「受容体未確認味」に分類している。
金属味の受容体は、現在に至るまで報告されていない。現在の味覚生理学の水準から判断すると、金属味の受容体はないと推認できる。問題は、どういう仕組みで金属味が感じられているのかを説明できない。それができないかぎり、金属味の受容体はないと断言することには躊躇がある。
(2019年12月作成)