トップページに戻る


カルシウム味

カルシウム味とは「カルシウム感知受容体CaSRが与える味」である。CaSRのアゴニストであるグルタチオンが与える味ではない。グルタチオンはCaSRだけでなく酸味受容体Otop1も活性化するためである。カルシウム化合物としては乳酸カルシウムもCaSRを活性化するが、乳酸カルシウムも酸味受容体を活性化する。CaSRだけを活性化する呈味物質は知られていない。

 カルシウムはアルカリ土類金属で、栄養学的には多量ミネラルの一つである。骨の代謝に必要で、骨の健康を通して、フレイルに関係すると考えられている。日本人の食事摂取基準では、成人男子(30-49歳)の推奨量が753mg/日となっている。にもかかわらず、摂取量が必要量にも達していない栄養素でもある。人に何らかの形でカルシウム味を感じる仕組みが備わっていても不思議ではない。

 カルシウム味は、無味とする意見が根強いが、朧気な認識は存在する。味覚受容体も確認されているので、味の一覧表ではカルシウム味を「味覚性味」の「受容体確認味」に分類している。

 カルシウム味の受容体とされているのは、CaSRである。CaSRは、Calcium Sensing Receptorの略語で、カルシウム感知受容体と訳されている。カルシウム受容体と呼ばれないのは、元々、体内のカルシウム濃度を定常に保つためのセンサー機能を果たす受容体として発見された経緯による。CaSRは、副甲状腺や腎臓などに発現している。この受容体は、Gタンパク質共役型であり、膜タンパク質である。味細胞でも発現していることが確認されている。

 CaSRに関し、意外な事実が明らかになった。CaSRのアゴニスト(作動物質)であるトリペプチドのγ-EVG(γ-Glu-Val-Gly)やグルタチオンが、コク味の認識形成に関与する物質であることがわかったのである。これらのトリペプチドは閾値以下の濃度で有効で、他の成分と共同でコク味をもたらす。この事実から、CaSRからの感覚情報が何らかの形でコク味の認識に関与していることは明らかである。

 脂肪酸味の項で説明したことであるが、従来は基本味だけが味という通説があったために、味と認められるには基本味と認められる必要があった。そして、基本味と認定する規定も組織もない。この事実が味や基本味の理解をいびつなものにしてきた。カルシウム味は脂肪酸味とともにこの問題を検討するうえで重要な題材である。

(2019年12月柳本作成)  (2025年3月改訂)