えぐ味とは「ホモゲンチジン酸や蓚酸が呈する触覚性味」である。
えぐ味はまずい味なので、おいしさを語るような場面には登場しない。逆に食品製造や調理においては、除去対象の味として関心が持たれてきた。つまり、アク抜きの効果的な処理法である。主な対象にされる食材は、タケノコやワラビあるいはホウレン草などである。
広辞苑には、えぐ味の項目はない。ただし、えぐい〔斂い〕の項目があり、「@あくが強く、のどをいらいらと刺激する味がある。えがらっぽい。」と語釈している。斂いだけで、味の説明に近い。日本国語大辞典には項目があり、〔斂味〕「えぐい味。のどを刺激するような味」と語釈している。
栄養・食糧学用語辞典では「苦味と渋味を混ぜたような舌や咽喉を刺激する味」と説明している。総合調理科学事典では「あくの味の代表的なもので、苦味と渋味が混合したような味で、えご味とも呼ばれる。」と説明している。苦味と渋味の認識には似たところがあるとはいえ、苦味は味覚性味で渋味は触覚性味の区別がある。説明に工夫が足りないようにみえる。また、どちらも英語はacridityとしているが、harshとされることが多い。
えぐ味は、少なくとも典型的な味は、渋味や苦味と区別できる。問題は、境界的な認識が存在することである。上の専門用語辞典の説明は、この事実を反映していると思われる。これらの味の曖昧な認識のためだけなのか、えぐ味物質のホモゲンチジン酸などが苦味受容体にも作用するのかの解明が求めらる。
コーヒーの苦味や緑茶の渋味のように、苦味や渋味には感じられると好ましいとされる食品もある。これに対し、えぐ味が感じられると好ましいとされる食品はない。その意味で、えぐ味は典型的なまずい味といえる。まずい味であるためか、調理をしない人は、えぐ味を案外知らない。
ただし、えぐ味のある方が良い例も指摘できる。おふくろの味とか思い出の味においてである。おふくろの味や思い出の味は記憶との照合を伴う、マルチモーダル認知である。えぐ味が僅かに残った食品に馴染んでいた人にとっては、えぐ味もおふくろの味あるいは思い出の味の一部である。えぐ味が僅かに残っている方がむしろ好ましいと信じられる。
(2019年12月作成)(2020年6月訂正)