ご飯の味は「口に入れた時にご飯を感じさせる味」と説明できる。具体的には、かむうちに出てくる独特の味と香りそしてかみ心地が相俟って、脳で感じられるしみじみとした味である。
専門家はしばしば、ご飯の味はほのかな甘味だけであるという。しかし、この主張は、味と味覚を混同している。というのは、ご飯の味は味覚ではない。この味は、マルチモーダル認知(多感覚認知)である。多感覚というのは、ご飯の味には味覚だけでなく嗅覚や表在感覚も関与するからであり、認知というのは脳に形成されているご飯の味の記憶(概念)と照合する過程が含まれているからである。なお、このご飯の味の記憶は、話し手の脳に形成されている。
ご飯の味は「味の一覧表」では「食品名+の型」に分類している。この小カテゴリーには、パンの味や野菜の味も含まれる。こういうと、食品の数だけ「食品名+の型」の味があるのではと疑うかもしれない。しかし、実際には16種だけを採用している。というのは、慣用味名とみなす4要件の一つに、「定型的な表現である」がある。具体的には聞蔵(新聞系データベース)とレシピブログ(レシピ系データベース)の両方のヒット件数が100件以上という条件を課しているからである。
国語辞典で「ご飯の味」という項目のあるものは見つからない。広辞苑には“御飯”の
項目があって、「めし・食事の丁寧な言い方」と語釈している。国語辞典に「ご飯の味」が項目にも用例にもないのは、上述のように挙げれば切りがないためであろう。しかし、ご飯の味は言葉として確実に普及している。
ご飯の味は、自分が食べてきた、恐らくは満足して食べてきた経験により形成されたご飯の味の記憶が照合の対象になっている。だから、ほとんどの人は、冷や飯や臭い飯にご飯の味を感じない。味付けご飯にも、ご飯の味を感じないであろう。
日本人のご飯は、日本人の食文化の一つの到達点である。というのは、米と水だけで炊いたご飯を食べているからである。素材の味を活かす姿勢が徹底している。そして、炊き方も主流の湯取り法でなく特有の炊き干しである。その米も多数派のインディカ米でなく、少数派のジャポニカ米である。ただし、日本人だけがご飯の味を感じているわけではない。これまでの調査で、韓国語のbabmas(ご飯の味)が慣用味名であることがわかってきた。ご飯の味とbabmasのどこが同じでどこが違うのかが分かれば、ご飯の味の理解が進むと期待している。
ご飯の味をしみじみ感じる食事こそ、我々の食事だと思っている。
(2021年7月作成)