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風  味

風味は「香りと趣が明確に加わった味」と説明できる。風味の特徴の一つは、本来的に好ましいことである。だから、風味があるというと食味が良いことを意味する。

 風味は中国から伝来した熟語である。現在の中国では、同じ意味でも使用されているが、同時に地方色の意味合いも強いという。韓国でも風味は使用されているが、やや硬い表現という。風味は日本人に愛されて、使用頻度の高い用語であり続けている。

 「味の一覧表」では、風味を大カテゴリー「食品一括味」に分類している。風味は個々の物質で説明できる味でなく、食品を一括して評価した味である。

 たいていの国語辞書には、風味の項目がある。広辞苑では「あじ。特に、上品なあじわい。」と語釈され、大辞泉では「飲食物の香りや味わい」と語釈されている。どちらの語釈にも、味わいが含まれていることを指摘しておく。風味が伝来した頃、味は主にあぢはひと読まれた。現在では、味わいはむしろ風味に近いようである。

 風味は伝来熟語なので、大漢和辞典にも項目がある。ここでは「@風流で奥ゆかしい性格。人品のゆったりしたさま。A上品でよいあぢはひ」と語釈している。新漢和大字典では「@ゆったりした奥ゆかしい性格。味わい深い人がら。Aおもむきのある、上品な味」と語釈している。

 本欄は、風味は味の一種との見解である。ところが、風味は味でないとする意見が根強い。この件についてやや詳しく吟味する。この見解で必ず指摘される根拠が、風味には香りも関与している事実である。香りが関与しているから味覚ではない、つまりは味でない、という論理である。確かに風味には香りも関与している。しかしながら、これは、味覚情報と嗅覚情報が脳内で統合されると味と認識されるためである。風味は味覚ではないが、味の一種である。

 複合感覚だからという理由もある。一見もっともな理由であるが、そもそも複合感覚は主に触感分野で使用されている用語である。触感分野では、触感が単独の感覚ではないと説明しているだけで、複合感覚だから触感でないとはされていない。複合感覚だから味ではないという意見には、無理があるようにみえる。そもそも、風味は味覚と嗅覚が関与するバイモーダル知覚(双感覚知覚)の味である。

 英語のflavorが風味の理解に隠然とした影響を与えている。flavorは一般に風味と訳される。そして、日本語ではフレーバーが香りの意味もあるので、flavorは味よりも香りに近いニュアンスがある。しかし、Oxford Thesaurus of Englishによると、flavourとtasteは相互に類語で、ほとんど同義語である。また、Oxford Chinese Dictionaryによると、flavourの訳語は「味道」であり、風味は出てこない。flavorは、風味よりも味わいと訳するのが相応しい。

 風味が味の一種とみなす理由は、何よりも風味は味が下に付く熟語である。そして、中国から伝わった時も、味を意味した。また、香りが関与しても味と認識される理由も上で説明した。風味と味わいは、官能特性的にはほとんど同じである。

 近年、飲料を中心にフレーバーホイールが精力的に作成されている。この場合のフレーバー(flavor)は一般に香味と訳される。しかし、香味と風味はほとんど同じ意味である。ただし、この場合のフレーバーには、味と香りだけでなく口内感(Mouthfeel:Trigeminal sense)が含まれる。英語のFlavorにmouthfeelが含まれるのは事実として、日本語の香味(風味)に口内感が含まれるという主張は、一般の人には理解されないであろう。また、フレーバーホイールは必ず食品を特定して作成されている。つまり、風味の認識内容は、食品ごとにかなり異なることを意味する。フレーバーホイールのような資料が作成されるのは、味の中で風味だけである。

 風味には、さわやかな風味とかまろやかな風味のように形容語が風味の上に付く用語が成り立っている。そして、これらの用語も広く使用されている。味が下に付く熟語で、このような表現ができる熟語は他に確認できない。風味が強く支持されている一面である。

(2019年12月作成)(2021年7月改訂)